高齢の母から贈与を受ける

高齢の母から贈与を受けるには
どのようにしたら良いですか

 

土地建物の名義を自分の名前に変えたい
同居している母親の名義だが。

登記原因は「贈与」ということで頼みたい。
「相続」となってからだと、
口うるさい姉たちがいて、
カンタンにいかなそうなので

頭の方はともかく身体は元気な今のうちに
登記の手続きをしてほしい

 

というお話です

 

まず、
手続きに入る前に大事なことがあります

 

1 お母さんには本当に
あなたに贈与するという意思がありますか

2 その意思を司法書士が確認できますか

 

お母さんの意思

お母さんが、認知症だとしたら、
そもそもあなたに対して
贈与する意思がおありですか

以心伝心でわかったとか?

テレパシー?

普段の言動から想像できる?

このようなものは微妙ですが

子どもの頃からお前にあげると
言われていた、というのは
有りうることかなと思います。

 

ですが

これらの意思がないのに
もらう方が勝手に

お金のやりとりはないから
売買ではないので贈与で
(もらう方が勝手に決めただけ)というのは

これではご本人に贈与する気があるとは
思えないので
もらう方だけの意思では
登記はできません。

どんなに認知症で判断能力が微妙だとしても
その人が所有する不動産や金銭を
他人が(子どもであっても)勝手に
処分することはできません。

 

さらには
何らかの手段で名義を変えられたとしても
所有権は移りません

判断能力がない人のした法律行為は
無効だからです。

 

さらにもうひとつハードルがあります

司法書士による意思の確認

登記を司法書士に委任するのであれば
その委任の内容について、司法書士が
当事者本人に対して
意思の確認をする必要があります

この義務は法定されているものです

 

さらに、意思の確認のタイミングですが
いつでも良いというわけではありません

基本的には
司法書士が登記の委任状を頂戴するときに
確認するものです。原則的には、これで
大丈夫です

 

ですが、これだけでOKというわけには
いかないこともあります

委任状を頂戴してから
実際の登記をするまでに
何かの事情でしばらく(数か月以上)
期間が空いたときには、少なくとも登記の
直近(合理的範囲内)に再度、確認を
すべきとされています

 

たとえば、こんなことが起こります

 

委任状等はもらったものの、当事者からの
実行連絡がないままゴーサイン待ち、と
いうようなことが、ままあります

「書類は預けますから、連絡するまで
ちょっと待っててください」
と言われたりします

 

「売買代金の振り込みが確認できてから
登記を出しましょう」
というときなどに
お金の手当が予想に反してスムースに
いかなかったとか。

家族間で贈与する話になっていたのに
急に他の家族から反対意見がでたので
説得するまでしばらく猶予が必要とか。

まあいろいろです。
いろいろ。

これが、
数日とか、数週間ほどであれば
大した問題ではないですが

結局
1年近く経過して(印鑑証明書は3か月で期限が
切れるので、再取得してもらうことになります)
ようやくゴーサインが出た時に

この時
なんと認知症を発症していて既に
自分の名前もわからない、というような
状況だとしたら

お気の毒ですがもはや
司法書士によっての登記はできないです

一年前に!問題なく意思が確認できたと
しても、実際の登記の時のタイミングで
意思の確認ができないからです。

 

なので、本当に贈与する意思表示を
以前からしていたとしても、いま現在
認知症だとしたら、司法書士が
贈与の意思と登記の意思について
お母さんに確認することは不可能かも
しれないです

 

大事なのはお母さんの気持ち

ですが、なによりも、まず
お母さんご本人のお気持ちが
どのようなものであるのか

司法書士の意思確認を心配する以前に
それこそが1番大事なことです

 

登記はいざとなれば(いざとならなくても)
司法書士に依頼するまでもなく、ご本人が
自分で手続きすることができます

インターネットさえ閲覧できれば
法務省のサイトに
申請書の書き方、添付書類等について
ていねいに書かれています

 

ですから、これに従って形式的に必要な
書類等をそろえさえすれば、贈与の登記は
無事に完了です。法務局が当事者の
意思確認をすることはありません
(積極的に疑うべき合理的な理由がないため。)

 

ですが、だからといって

ひとりでできるからといって

勝手にやるのは犯罪行為です

たとえば、お母さんの
判断能力も身体能力も低下しているのを
承知の上で、勝手に実印等を用いて
自分名義に贈与の登記をしてしまう
などというのは、まずいです。

どうみても犯罪です。

 

私文書偽造罪
公正証書原本不実記載罪など
よくわかりませんが
いくつかの罪に問われることになるでしょう

公にされることがなければそのまま
済んでしまうかもしれませんが

この事案(相続発生前に他の相続人に内緒で一気に
勝負をかけたい
)だと、姉や兄たちから
物言いがついたら
訴訟に発展する可能性があります

 

ところがそうではなくて
お母さんの気持ちが
本当に同居の息子に家をあげたい
いうものであれば、もしも動けなくても
手が不自由で字が書けなくても
大丈夫です。

どなたかに代筆してもらえばいいだけの
話です。
単なる代筆は犯罪でもなんでもなく
全然問題はありません。

利益を受ける側が勝手にやったのではなくて
お母さんの意思に基づいて
代筆したり、書類をそろえたりした
というのであれば、もちろん、全く
問題ありません。

 

 

おまとめ

というわけで、残念ですが
贈与意思というか、登記意思を
確認することができないときは

その贈与登記は少なくとも司法書士は
お引き受けすることができないことに
なります

 

 

また、心配なことは
本当に本人の意思に基づいて登記が
なされたのだとしても

だからといって、将来
問題になる可能性がないわけではないと
いうことです。

たとえば
遠くに住んでいてほとんど寄り付かなかった
兄弟が、母の死後、
あの頃はもう認知症がすすんでいたはずだ
と妙な主張をしてくることがないとは
言えません。

単に、
可能性があるということに過ぎないですが

 

そうした可能性があるのであれば
書類作成および証拠の保全については
予めそのような問題意識をもって
ことにあたることをお進めします。

 

たとえば、ありがちなことですが

本人は手が不自由なのでどなたかが
代筆した、というようなときは

将来に備えて、つまり
証拠のためということを考えるのなら

代筆による委任状は
ご本人の意思があったと
当然に推定されるものではないので
それなりの手当を講じておく必要があります

そうですね。たとえば
贈与の意思表示をしているところを
録画録音しておく、などです。

「今日は、令和5年8月19日です。
一緒に住んで、いつも面倒を見てもらって
いる息子ちゃんに、この家も土地も
あげることにしました。でも、
お母さんは手が痛くて字が書けないので
お嫁ちゃんに代筆を頼みました」
という
感じのものがあるとよいかもです

 

つまり万が一
裁判にでもなったときに備えて
証拠となるものを確保しておくことが
大事です。

贈与の意思表示の際に
判断能力は確かにあった
ということを
証明するということです

たとえば、当時認知症を発症していて
判断能力がない、とされていたとしても
そのとき、たまたま、
正常に復していてその際に
贈与の意思表示をした、というような。。

ただ、
たまたまその時正常に復していて
という部分を書面等によって証明するのは
かなり困難なのではないでしょうか
やはり録画または録音しておくとか。

実際に、まだら呆けという状態は
よく聞かれることなので、一番よいのは
医師をその場に立ち会わせることですが
そこまでする方は少ないと思われます

録画録音しておく、というのは近頃特に
よくつかわれる手法なので、
手軽でよいのではないでしょうか

 

ですが、正常に復するタイミングを
待っていても、らちが明かない
というときは、

もう、諦めるしか
ないです。

 

遺言書?

自筆遺言書を書いておいてもらうという
ワザもあります。

字が書ければこれも
カンタンにできることではありますが

判断能力のない状態で
言われるがままに書かされたとしたら
遺言書の効力は微妙です

 

そのような自筆遺言であっても
検認をうければ執行することは可能かも
しれないですが

この事案の場合
口うるさい姉たちや
こんな時ばかり主張してくる兄などから
やはり物言いがつく可能性があります

 

遺言書は日付が必要なので
亡くなった後で、姉たちから

その日付の頃は既に朧(おぼろ)に
なっていて、正常な判断などとても
できる状態ではなかった!
遺言は無効だ

と主張されるおそれは
充分にあるということです

 

贈与税?

親から子どもへの贈与は
現在のところ
税の軽減がうけられるようです

思い立ったが吉日なので、そのうちに
とか、秋風が吹いて涼しくなったら
とか言っているうちに

高齢の方はあっという間に
体調や気分が変わってしまいます

「お前に上げるよ」と言われたら
速やかに司法書士に連絡をして
手続きをお取りください

 

ただし、
税金のご相談は当方ではなく
税理士か税務署にお願いします

 

贈与登記のご相談は
どうぞお気軽にご連絡ください