登記意思の確認とは?

登記の意思確認について

 

司法書士が登記手続きをするにあたって
必ずしなければならないのが、

俗に言われる
ヒト(人)モノ(物件)イシ(意思)の
確認です

いずれも欠かせない重要な確認事項ですが
それでも、ヒト、モノの確認はわりと簡単です

ですが、
当事者(特に登記義務者)の意思の確認は最難関の作業です

 

意思の確認。

 

意思の確認というのは、端的に言えば、

ここを売りますか?について

yesという回答を求める行為です

 

特に、登記義務者(売る人、上げる人、など権利を失う側の人)の意思確認については、
かなり慎重に実施することになります

 

えっ?意思の確認って、
はい、って返事することだけじゃないの?
とお思いの方

実はそれだと、
一部は確かに正しいですが、一部は実は微妙なのです

 

ハイ、と言えればよいのでは?

 

登記に関係のない人や、
関係のある仲介業者の方でも勘違いしていることがあるのですが、

単に、「売りますか?」という質問に
ただ、「はいそうです」と答えればOKなのかと言ったら、そういうわけではありません。

そのような回答では、
問題があると言わざるを得ません

 

よく、重度の認知症の方が当事者のときに、(そもそもそのような意思能力も満足にない人がどうして不動産の売買とか贈与とかという話になっているのか不思議ですが)

仲介の方や、代理の方が、

「本人は喋れないけど、うなずくことは可能です」

とか、

「はい。という返事はできます」と、
言うことがありますが、それでは、
意思の確認が可能な状態とはいえません。

また、そのご当人から
「その土地を売ります」と棒読みのような回答をされることがありますが、
これでもまだ、難しいかもです。
棒読みですから。

あとは、
「息子に全部任せてあるので、息子と話してください」と言われることもあります。
微妙ですが、
意思確認は所有者相手にするものなので、
これではやはり難しいかと思います

 

痴呆症の人は売れないのか?

 

じゃあ痴呆の人は売買できないのか!とお怒りのあなた。

実は、そうなのです。

痴呆症の人は、
売ることも買うこともできません。

なぜならば、意思能力がないから。です

意思能力がなくても、
小さな子どもが買主や売主になることもあるのでは?

とお思いかもしれないですが。

このときは、
その小さな子ども本人ではなく、
その法定代理人(一般的には父と母)が代わって登記申請をします

痴呆症の方がどうしても土地を売却したいのであれば、成年後見人を選任して、
その方からの売却ということになります。

ただし、

成年後見人選任は家庭裁判所に申し立ててするので、それなりに時間と費用はかかります。
さらに、その方がかつての住居としていた不動産を売買するに際しては、裁判所の許可が必要となります

 

なぜにこのように面倒なのか

 

意思の確認があいまいなまま登記を完了させてしまうと、あとあと問題になることがあるためともかく細心の注意が要求されます。

 

近頃は、
特に高齢者が登記義務者となるケースが多く
そもそも意思の確認が不可能であることが少なくないため、

事情をサラッと伺っただけで、
申し訳ないですがお断りすることさえあります。

と言うのは、
実際に現地(病院とか施設)へ赴いた後で
お断りするのは心苦しいものがあるからです
人情として、ということです。

こちらとしても事情を想像すると
気の毒な感じがするからでもあるし、
ほら、うなづいてますよね。とか、
ハイ売りますって言いましたよね、などと
どう見ても意識がもうろうとした状態の寝たきりの所有者を前に言われても、
なんとも答えようがありません。

「残念ですが、私には意思能力があるようには、見えません。ご自身のお名前も分かっていないようです。」とお伝えします

でも、

「相続人は私しかいません。(戸籍を持参の方もいます)」

「誰に迷惑をかけるわけでもありません。」

「この土地を売って施設費用にあてるお金がどうしても必要なんです。」等々。。。

お気持ちはよくわかります。

 

俗に、まだら呆け、という言葉があるので
確認のタイミングというものもあるのか、とは思います

ただ、現場でどうにも意思確認ができなくて当方でお断りした案件を、ほかの司法書士が普通に登記していたこともあるわけです。
おそらく、この反対の場合もあるのでしょう

 

意思確認の重要性

 

ただ、この重要性は、説明の仕方が悪いのか
当事者をはじめとして仲介業者の方にさえも理解してもらえないことがあります

先日は、

「おかしな話ですね。それって、本人が売ると言ってるのに、登記ができないってことですか」と仲介業者に凄まれました

 

ですが、

所有者の意思の確認が重要なのは、

意思無能力者からの売買が(贈与等も同様)
無効だからです

 

なので、
意思無能力者Aさんから土地を買ったBさんは
所有権を取得できません。

Bさんはお金を支払ったかもしれませんが
そして、
登記記録上も所有者としての記載がされたかもしれませんが、
その所有権を取得しません。
(真実の所有者は相変わらずAさんのままです)

 

近頃ではこうした意思能力のない人から購入してさらにそれを、
事情をまるでしらない文字通り善意の第三者に売り渡す、というような取引を専門にしている業者がいる、というウワサを聞いたことがあります

ですが、

意思無能力者から買い受けた人は、所有権を取得しません。

さらに、その人から再び買った人も、
登記が移ったとしても、所有権が移転することはありません。

 

ただ、実際問題として、相続人が一人しかおらず、その一人がこうした脱法的な売却をもくろんだとして、

将来、その契約が無効だと申し立てる人がいるのかという問題はあります。
そういう人がいなければ、少なくとも外形上はセーフです
曰く、
誰に迷惑がかかるわけではない、という法理ですね

 

逆に想像しやすいパターンとしては、

相続人が数人いるなかで
他の相続人に無断で勝手に寝たきりの意思無能力者の不動産を処分してその代金を着服した、
という場合などです。

こうしたときは、
他の相続人が売買無効を訴える可能性はあります。そうなると、登記を請け負った司法書士もほとんど同罪ということになります

 

 

 

ヒトの確認。

 

この人がだれである、という証明は、
運転免許証などの写真付き公的証明書があれば、ほぼ、OKです

ただ、この確認のポイントは

この方が、
登記簿上の所有者と同一人物であるか、ということです

 

写真付き証明書と住所も氏名も同一であれば疑う余地はあまりないですが、
住所が何度も変わっていて、それを証明する手段がなかったりしたら、同一人かという証拠はありません。

せめて、権利証を持っているとかなり有力な決めてとなるのですが、昔々の登記だと、失くしてしまったという方は少なくありません

 

次の手段としては、固定資産税の課税がされているかということです。

ここに、所有者と称する方の名前が載っていれば、さらにご本人であるという確率(!)は高まります。
ただ、山林や農地などで、評価額が僅少だと
課税されないことになるため、望む書類は得られないことが多いです

住所について、
そのつながりの証明が得られないときは
登記としては、その登記された住所にその氏名の人の本籍や住民登録がなされていないという証明をとることになります(不在住不在籍証明書)
しかし、これは、
その人(所有者と主張する人)が本人であるといういわば積極的な証明書ではありません

あくまで、その登記の住所氏名の人は現在はそこに住民票も戸籍もない、という消極的な証明に過ぎず、本来の証明とは異なるものです

なので、
権利証もないし、
住所もつながらない、
課税もされていない、という状況だと、

登記されている人と、
所有者であると主張する人が同一人であるかは
状況から判断するしかないことになります

状況から判断がつけばともかく、判断がつかないときは、この先の登記が進められるかどうか、非常に微妙なことになります

 

実際上まずは、

住所変更の登記ができるかどうか、がカギです
最終的には法務局の判断ということになり、
これも、個々の法務局の登記官次第というところもあるので、
運しだいという点も否めません。

そしてこれさえ無事に終われば、あとは
通常の登記の手続きなので、権利証がないとしてもそれほど問題はありません。

 

モノの確認。

 

これについては、カンタンそうですが、
例によって、こちらについても落とし穴が
あります

買う人も売る人も「取引はここ全部」という認識でいた場合。

契約書には、その土地建物等が
(何筆にも分かれている場合があります)
全部網羅されていることが大切です

 

それでも土地については、公図で大体のことはわかるので、記載モレがあったとしてもなんとかカバーできます。

真ん中だけ抜けていれば、ここが抜けてて大丈夫なのかモレはないのかを確認することができます

さらに、権利証があれば、そこには、本人が忘れていた私道持分なども記載されていることがあるので、何とかなることがほとんどです

 

ところが一方、

建物、特に古い建物については、
登記の状態と現状が異なっていることが多いです。

さらに、役所による評価証明書にも、
現状とは異なった建物が記載されていることもあって、売買物件を確定するのは難しいこともあります

 

どういうことかと言うと

買った人は、ここ全部を買ったという認識
売った人も、ここ全部を売ったという認識
両者の意思に不一致はなく、
ここに問題があるとは思えないかもです。

たとえばこのように↓

土地が何筆もあって、
そこに登記されている建物は数筆あり、かつ
それぞれの建物に付属建物(車庫とか、事務所とか物置とか)が何棟かずつあります

登記簿と評価証明書の表示は、特に古い建物については一致しないことがほとんどなので

物件は、契約書どおりで。ということで
それでモノの確認はできた、としてよいのでしょうか
(いいわけがありません)

仲介業者がすべてを把握しているという前提で動くのは、司法書士の宿痾のようなものかもしれません。

このようにして完了した登記が実は恐ろしいことに。。。。。

 

数年の後、実は、この土地上には、さらに
もう1筆の建物があることが判明しました

もちろん、前の所有者のままの名義です。

運悪く、その建物は
このほど差し押さえがされてしまいました

こうなると、
自分の所有地の中に他人名義の建物があって
このままいくと、さらに知らない誰かに競落されるかもしれない!!!

とんでもないハナシです

 

こうなると、まずは、契約締結上の責任を追及したいところです。

売買契約書に書かれていなかったわけですから。

ちなみに
仲介業者は3社入っていましたが、

1社は破産。
1社は解散して結了。
1社は社長が行方不明ということで、
つまりは、そちら方面の責任追及は困難

となると、
次に責任を問われるのは、、、、
(以下省略)

 

おまとめ

 

このように、司法書士が
口を酸っぱくして言い募る意思の確認には
いくつかの意味が込められていて、
いずれもはずせない大事な確認なのです

 

ヒトの確認ができなければ、登記まで進めません。

モノの確認が不完全だと、後日、責任を問われることになります。

(責任の取り方は漏れていた物件の所有権移転登記を完遂すること。それが不可能なときは金銭による損害賠償さらに特殊な事情、つまりそこがなければ一体としての価値が大幅に減ずるなどの事情などが加われば大変なことになります)

イシの確認ができなければ、そもそも登記の代理は不可能です

 

なお、
本人同士でする登記の場合は、
以上のような面倒な確認作業は不要です

上記の確認は、
司法書士が登記を間違いのないように安全に進行させるための確認事項に過ぎません。

なので、
売主が完全に寝たきりでほぼ意識のない状態にあったとしても、実印と印鑑証明書・識別情報さえあれば登記が可能です

つまり、
一般の方が自分の登記をするにあたっては
書類さえそろっていれば登記は可能です。

ただし、将来、
不測の事態を招くことがあるかもしれません

 

登記手続きの代理をいたします
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