相続したのに抵当権が付いている

相続した土地になんと抵当権が!
それも何個もついてる・・・

 

質問

このほど父が亡くなり、遺産分割協議の結果
同居していた私が不動産全部を
相続することになりました。

母は預金を相続し、姉は、嫁いでいるので
相続分を放棄し、実質上、私と母だけが
相続人となりました

 

で、その遺産分割結果をもって登記に臨もうとしたところ、
父の遺産である不動産には
50年も前に付けられた抵当権がいくつも
付着しているではありませんか

銀行などからの借金ではなく、相手は
同じ町に住所をもつ人たちです。
ひょっとしたら、高利貸しなのかも。。
そして、債権額は、
土地建物全部合計すると何千万にもなります

もう、放棄をできる時期は
とっくに過ぎてしまったし、どうすればよいのか

一生かけて、この借金を払わなければならないのか。
その人達が借金の取り立てにでも来たら、
一体どのように対処すればよいのか。

心配で、いてもたってもいられません

 

 

お答え

ご心配ですよね。でも、ご安心ください
これらの場合は、通常
大した問題ではありません。

 

抵当権とか、債権額という言葉には
多くの人は免疫がありませんから
びっくりする気持ちはよくわかります

せいぜい住宅ローンで目にするくらいでしょう

でも、大丈夫です。
このパターンは大したことではありません
それほど慌てなくても大丈夫です

 

ただし、
ご注意。

大したことではないというのは、
競売にかけられて所有権を失う、とか、
多額の弁済を迫られて借金取りに追われるということがない、
という意味です

 

ご質問のような場合は、
弁護士が交渉したり、
裁判を起こしたりという作業をしている間に
数ヶ月から半年くらいは、
簡単に過ぎてしまいます。

大したことではありませんが、
時間とそれなりの費用がかかることだけはご理解ください

 

時効なのでは?

50年前の抵当権は、基本、消滅時効が
成立しています

時効が成立していないとしたら、もしも
有効なものだとしたら、
とっくに、競売にかけられていたでしょう

この先も
50年前の抵当権を競売にかける人は
いません(時効だから)

ちなみに、

時効だからといって
自動的に〇〇年たてば登記簿上も消滅する
とか、
法務局の職権で自動的に抹消される
というようなものではありません。

所有者から相手方に対して
時効を主張することが必要です。

時効による抹消手続きは、
裁判をしない限りは、相手方との共同申請となります

共同申請

たとえば、この場合だと、
所有者と抵当権者、双方の委任状が必要だということ。
(場合よっては、印鑑証明書も)

抵当権者が死亡していたら、
その相続人全員(または、その抵当権を相続した人)の委任状が必要になります

なお、裁判で勝訴すると、
抵当権抹消登記は本来は共同申請ですが
勝訴した側の単独申請となるので、
その人の委任状だけで手続き可能です。
相手方の委任状印鑑証明書は不要です

債権の額について

念のためにご説明しますが、

全部(例えば10筆)の不動産に
債権額50万円の抵当権(共同担保)が
登記されていた場合、

この債権額合計は500万円ではなく、
50万円です。

共同担保なので、
これらの不動産10筆全部で50万の担保をつけます、という約定がされたに過ぎません

なので、

もしも弁済を求められたら、と ご不安でも
不動産ごとに計算しなくて大丈夫です

 

相続放棄は無理でしょうか

そんなに面倒なものがついているなら
できるものなら放棄をしたい、と思ったら
それも不可能ではありません。

本来は、相続放棄は、
相続が開始したことを知ってから
3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申述する必要があります。

しかしながら、
自分が債務を負ってるということを知ってから3ヶ月以内でも相続放棄が可能なことがあります
このあたりは裁判所の判断なので絶対大丈夫とは言えませんが、こちらの事情を考慮して認められることは多いです。

 

本当に放棄していいの?

しかし、
放棄をするということは
すべての債務を放棄できると同時に、
すべての財産を放棄することでもあります

この方の案件については、
単純に計算して債務の額よりも財産の価額が
遥かに遥かに多いのです。

気をつけましょう!
一度相続放棄をしてしまったら、通常は

その撤回は認められません

撤回するには、
泥酔状態だったとか、
脅迫されていた、とか特殊な事情が求められます

 

今回の場合は、放棄をするのではなくて
いっそ抵当権者(または、その相続人全員)に対して裁判をおこしてさっぱりする、という方法をご提示しました

このような裁判で、負けることは考えられません。

または、裁判を起こす前に
弁護士から相続人たちに直接交渉してもらい
抵当権抹消のための書類を
いくらかの解決金と引換にする、という道も
ありそうです。

 

 

 

以上は、抵当権者がいずれも個人(会社ではなく銀行でもない)だった場合の話です

 

銀行の抵当権だったらどうなるの

これが、もしも金融機関であれば、
50年前の抵当権が実行されない(競売にかけられないで)で今に至るということはそもそも考えられません。

通常は
弁済は終わったのに抵当権抹消の手続きを
所有者が怠った、ということがほとんどです

抵当権をつけるときの登記は、金融機関が
その裁量で登記をするため(費用は所有者負担
弁済が終わった場合にも手続きは銀行の方でやってくれるのか、と誤解してしまう方も多いようですが
抵当権抹消の手続は所有者の責任でするべきものです

 

もしも登記簿上に、このように何十年も前の抵当権を発見したら、まずは、その銀行に抹消の依頼に出向きましょう。

弁済の事実を証明することができなくても
「古すぎてもう当時の資料がない」
ということで、おそらく
本人確認書類と引き換えに、抵当権抹消の書類を発行してくれます。

また、抵当権者が
とっくになくなってしまったらしい聞いたことのない銀行らしき名称の法人だったとしても、
ほとんどの場合は、合併や本店変更などの変遷をたどることができます。

それが可能であれば、引き継いでいる現在の銀行の窓口に行けばよいだけです。

 

万が一、廃業し、消滅してしまったらしい
変遷が全く辿れないということであれば、

供託するなど、また別の方法があります。

 

抵当権者が個人の場合だと

しかし、
抵当権者が個人だとハナシがかなり
違ってきます。

上記のご相談のように、銀行とはちがい、
長い時間が経過すると相続が発生してしまうからです

この点ですが、相続の有無も不明で、
現在の住居所が全くわからない、いわゆる
行方不明なのであれば、

供託をすることによって非常に簡単に抹消することができます

 

ご注意
弁済供託をするためには、
行方不明である他にもいくつか条件があります

行方不明とは

 

このときの行方不明という言葉ですが
私達が通常使う言葉の意味とは少々異なります

ここでの意味は

・債権受領催告書を配達証明付き書留郵便で送付を試みたもののそれが不到達であって郵便局の「宛所に訪ねあたらず」というスタンプが押されている

または、

・民生委員か警察官の
「その住所にその人は住んでいない」という証明書が添付できるなど。

以上のような証明書を入手できるときに限られます

 

が、田舎の方だと、子孫がそのまま家を引き継いでいることも多いです。
そうした場合に皆が皆、快く手続きに協力してくれるわけではありません。

弁済の証拠がないというなら、元金と利息を今の貨幣価値に引き直して全額を返してほしい。でなければ手続きに協力できない
と言われた人もいます。すごいですよね。

直に交渉に行ったりするとそのあたりがネックとなることがありますが、法律上、時効消滅しているので、
裁判にすれば、よほどの事情がない限り抹消することができます。
ご安心ください

 

まとめ。 では、どうするか

過去に戻って先祖に抹消するように依頼することはできません。

なので、

古い抵当権は、
・弁護士の手を借りるなり、
・弁済供託するなりして、
抹消することになります。

それぞれの事情によっては難易度が高いこともありますが、
基本的にはなんとかなることが多いです。
時間と費用がそれなりにかかりますが、仕方ありません。

 

このように考えてくると、せめて自分たちはそのような負の遺産を残さないように心がけたいものです

住宅ローンの返済が終わるなどして、抵当権の抹消のチャンスがあったら、
先延ばしにしないで、
忘れてしまわないうちに、即、手続きをしてしまいましょう。

 

過去に戻れない以上、現在できることを粛々とこなすしかありません。

 

抵当権抹消のご依頼は当方までどうぞ。

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