実現されない遺言?

遺言は けっきょく、執行というか
実行されることがないのか

 

遺言は、遺言した人が死亡して初めて効力を持つものです
なので当たり前ですが、
その内容が実現されるのかどうかは、
遺言した人は見届けることができません

当然、実現して欲しいから
遺言をのこしているわけですが
遺された人たち(相続人たち)が遺言者本人の望む通りにことを進めてくれるかどうかは
まさしく、神のみぞ知る、といったところです

遺言通りにやってもらえるかどうかは、
わかりません

きびしいですが、これが現実です

もちろん、言うまでもなく遺言はそのとおりに執行されることもあり、
おそらくその方が確率としては多いと思います

 

遺言が実行されない理由は

 

1 発見されない

 

そもそも相続人(たち)が、
遺言書があることに気付かなければ話になりません

公証遺言であれば、公証役場にいけば
検索してもらえます

が、
そもそも遺言があるのでは?と
思いつかなければ
探そうとはしないものです

まさか、と思うような人が遺言をのこしていることはあります

反対に、
絶対このような人こそは遺言してるはずだ、というような人に限って全然無頓着だったりします縁起が悪いとか言って。。。

自筆遺言にしても、
故人の寝室のナイトテーブルの引き出しを探すとか、押し入れの古い鞄の中を探すとか。
ざっくり探してみて何もないとなったら
多くの場合それ以上がんばって探さないものではないでしょうか

遺言を書いてあるよ、と生前言われてでもいない限り。

 

つまり、発見されなければ、当然、
遺産は当事者(相続人)間でしかるべく分割されることになり遺産分割協議をする
遺言した人の意思は実現されないことになります

 

2 無視される

 

遺贈された人は、いらない、と思う
貰わなかった人は、これは不公平なのでは?と思う

これらの意思が合致したときに、相続人間で
見なかったことにしようという合意が形成されます

なお、心配する人がいますが、

遺言に背いて
相続人全員で全然別の内容の遺産分割協議をすることは違法でもなんでもありません。

全く問題ないです

 

ただし、ご注意ください

遺言執行者が選任されている場合は
この限りではありません

改正前の民法では、
遺言執行者は相続人の代理人と定められていたため、
相続人と遺言者の利益が対立する場合にトラブルになることがままありました

今回の改正ではその点をふまえ、
遺言執行者の職務は
遺言の内容を実現することにある
とされました


民法1012条
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する
2遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる

 

3 主張の強い人に押し切られる

 

その遺言書(自筆遺言であれば、検認をうけたもの)が適式であれば、
財産を遺された人は、
不動産の名義を変えたり、預貯金を解約したりすることなどを、
ほかの相続人の同意なしで、することができます

しかし、それでも将来の争いの火種になりかねないので、一言、他の家族に報告をしたりするわけです
そのような法的義務はないです。が、人情ですね。

「お父さんが全部私にくれるって言ってるから、全部いただきます。」

まあ、このように実際に事前に通知するのかどうかは微妙ですが、
報告した場合に、他の相続人から非難を浴びることもあるでしょう。

ええっ?あんまりにも不公平!自分だけずるいのでは?などと。

たとえば、
1(貰える人)対3(何も貰えない人)だったときにおそらく、気が弱い人であれば、1対3の数で負けます。
または、貰えなかった人が発言権の強い人であったときは、
たとえば、昔から支配的な立場だった年の離れた長兄とか。

幼少時から圧力を受けてきた弟や妹は、
そのように強いことを言われたら、
それに打ち勝つことはできないかもしれません。
(法律的に、ということではなく、単純に、激しい要求に屈しやすいということ)

そうしたら、
じゃあ、遺言はそのままそっとしておいて、みんなで、公平に分けよう
ということになり、
遺言は執行されません

 

4 面倒だ。。。

 

遺産に対して執着がなかったり、関心がない場合は、面倒くさいということになります

自筆遺言の場合は、
この遺言を執行するためには、遺言の検認手続きが必要です
公正証書遺言・法務局保管の遺言書の場合は不要です

これは、

戸籍などをそろえて、管轄(亡くなった人の最後の住所地)の家庭裁判所に申し立てる手続きです

戸籍(被相続人の出生から死亡まで。相続人全員のものも。)のほかに、裁判所からの通知が行くので、全員の住所も必要です

司法書士や弁護士に依頼してしまえば、それでOKなのですが、
多くの場合は、ご自身で手続きをすることを考えるので、面倒かも、ということになります

中身が遺産と関係のないことを書いてあるかもしれないので、念のため確認してみると、

農地と貸家はAとBが半分ずつ
自宅建物はB
預貯金は全員で仲良くわける
ゴルフ会員権はCに
などと書かれてあって

相続人全員は特に異論があるわけではないけれど、そのままでも別によいのでは?という気持ちだったとします

預貯金は全員で簡単に解約することが可能だし、不動産の名義はさしあたってこのまま変えなくても将来罰金は来るかもしれないにしても問題は生じないでしょう?ゴルフは誰も関心がないので、とりあえずそのまま。

という感じでしょうか

つまり、面倒なので、誰も遺言の内容を実現しようとしないということもあるのです

 

では、どうしたらよいのか

 

もしも、本当にたとえば、

無職で財産のない相続人Dのために
きちんとした遺言をしておきたい

という考えであるならば、実現されるかどうか不確定な遺言などに頼らずに、
今、そのような行動を起こしておくべきです

 

当然、
さまざまに事情があって、
今すぐというのは避けたい。だからこその遺言なのだ
とお思いでしょうが、
遺言というものは、実現されない可能性のあるものなのです。
死亡したあとで、それを実行してもらえる確率は、果てしなく低いとは言いませんが、
100パーセントではありません

 

たとえば、「相続人Dは定職も家族もないので預貯金のすべてはDに相続させる」

という遺言を書いても、

Dはうれしい!と思っても、
他のABCによって、
鼻で笑われて終わりにされたり、
握りつぶされたり、言い負かされたりして
Dに全額どころか、一銭も入らない可能性だってあるわけです

このあたりを
本当に心配しているのであれば
Dに生前贈与すべきでしょう。

贈与税が高いとか、
そんなことを云々している場合ではありません。

他の家族に文句を言われたくないとか、
そのようなことを言い訳にして、

遺言者が今生きているうちにできることを、
あえて先延ばしにする理由はありますか

その理由は、
Dへの愛情よりも大きなものなのでしょうか

 

でも、結局。。。

 

とは言っても、人生何があるのかわかりません。

せっかく大金を贈与しても、Dがそれを奇貨として瞬時に使い果たして運悪く突然死してしまうかもしれません。

そこまでダイナミックでなくても、
遺言者の死亡のあとで、
相続人間での力関係が劇的に変化することもあります

たいていの場合、一族の権力者が死亡すると残された相続人たちの力関係はかなりの変化を余儀なくされます

状況は様々に変わっていきます

このあたりが、人生の面白さ、といっては
不謹慎の誹りを免れませんが、やっぱり面白いところで、遺言の扱われ方にしても実際どうなるのかその時になってみなければわからない、というのが正解ではないでしょうか

遺言は実現しないかもしれないですが、
実現しないことが、あるいは、
神の意思なのかもしれないです。

ただ、

遺言は実行されないこともあるということは
ぜひ、お忘れなきように。

 

ご健闘をお祈りします

 

なお、

生前贈与等、税金のご相談は、
税理士までどうぞ。  当方は
税金のご相談はお受けできません