贈与か、遺贈か、死因贈与?

贈与か遺贈か死因贈与か

 

一体、どこが違うのか

 

贈与

 

あげる人が生きている間にするのが
贈与(ぞうよ)です

もちろん貰う人も生きている人ですよ。

なので、

生前贈与という言い方をすることもあります

これは、あげる人ともらう人の
贈与契約によるものですが、

 

・契約は、口頭で成立します

あげる人があげると言い、
貰う人が貰うという意思を表明した時に
贈与の効果が生じます

ですが、

・不動産の名義については、
第三者対抗要件としての登記が必要です

登記をしなくても、
当事者間では贈与は有効ですが、
第三者に対しては登記がないと、贈与の事実を主張できません

 

・贈与契約書を作ってないときは、
いつでも自由に撤回が可能です

ただし、

登記が終わってしまったものについては撤回ができません。

 

(書面によらない贈与の解除)
民法550条
書面によらない贈与は、各当事者が解除することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない

 

履行というのは、
不動産について言えば、引渡しまたは登記をすることです

なので、
その贈与の効果を確たるものにしたいときは
まず、贈与契約書を作って、

それが不動産であるならば、速やかに
贈与の登記をしてしまうことをおすすめします

 

遺贈

 

遺贈(いぞう)というのは、遺言で誰かに
(相続人または、相続人でない人に)
贈与することです

なので、

実際に所有権が移転する(名義が変わる)のは
持ち主が死亡した後のことになります

自動的に変わるのではなく、
しかるべき登記の手続きを踏むことになります

つまり、しかるべき手続きがなされないと
遺言に残しただけでは絵に描いた餅で、
終わりです

 

死因贈与

 

死因贈与(しいんぞうよ)というのもあって
遺贈と似ていますが、

 

遺贈は、貰った本人でさえも
遺言が明らかになるまで贈与されたことを
知らないこともあるのに対して

死因贈与は、あげる人ともらう人の契約です

遺贈は、遺言で一方的に
「誰それにこれを遺贈する」と書くだけ

 

なので、
そんな話は初耳よ、ということはありません

契約なので、書面でする必要はないですが
書面ですると撤回ができなくなります
(このあたりは生前贈与と同じです)

実現を期すためには、書面を作成した方が
よいかと思います

また、遺贈と異なり、
死因贈与については、その仮登記をすることが可能です

始期付所有権移転仮登記というものです

 

仮登記をする

 

死因贈与契約書は次のようなものです

後のことを考えて公正証書
(贈与者の印鑑証明書と実印での押印が必要)
作成するとよいです


死因贈与契約書

1 贈与者Aは、贈与者の死亡によって効力を生じ死亡と同時に所有権が受贈者Bに移転するものとし、本日、Aが所有する下記の不動産を無償でBに贈与することを約しBはこれを受諾した

不動産の表示

所在・地番・地目・面積

2 当事者は上記不動産についてBのために始期付所有権移転仮登記をするものとする
Aは、Bが上記仮登記申請手続きをすることを承諾した

3 Aは、以下の者を執行者に指定する

執行者 住所 千葉県茂原市上の林18番地41

    氏名 B 

    職業 無職

    生年月日 2000年2月30日

受贈者と執行者が同じだとあとがラクです

上記契約の成立を証するため、本契約書を2通作成し、各自が署名捺印した上、それぞれ所持するものとする

2022年11月20日

贈与者 住所 氏名A  実印

受贈者 住所 氏名B  印


 

これがあれば、
通常仮登記を付けるときに必要な、

  • 登記義務者(贈与者)の承諾書
  • 登記義務者の委任状
  • 印鑑証明書が不要となり、

受贈者(貰った人)だけで、仮登記ができます

 

ですがご注意ください

仮登記はあくまでも、仮に過ぎないので、
この権利は、本当のものではありません。

この時点での所有者は贈与者のままなので
ご注意ください

 

契約の発効

 

その日が到来して
贈与者が死亡したとき、

この契約は効力を生じることになり、
つまり、所有権は受贈者に移ります

 

ですが、

登記の方は自動的にされるわけではないので
登記手続きが別途必要です

 

死因贈与契約が公正証書でなされていて
執行者が指定されていれば、

その登記は、
貰った人と執行者の共同申請ですることができます。

さらに、

貰う人と執行者が同一人であれば、
その人ひとりで登記が可能で、
ほかの相続人など、誰の協力もいらないことになります

 

公正証書でないとき

 

これが、公正証書でなかったり、
執行者が指定されていなかったりすると
贈与者の相続人全員の協力と印鑑証明書が
必要になってしまいます

 

のみならず、

私人間で作成した単なる死因贈与契約書だと

のちのち、その相続人から、

贈与者の意思能力等について疑義
(すでに認知症が進行していたのではないかとか無理に脅かして契約書を書かせたのではないか)が出されて非常に不快な状況になることがあるので、
どう考えても、公正証書で作成するのがよいと思います

 

ただし、
死因贈与については、いろいろ税金関係で面倒なことがあるらしいです
特に高額不動産の死因贈与については、事前のご検討をおすすめします
税務署または税理士にご相談ください

 

これらを総合して考えると

 

贈与は、
生前に権利が動いて名義が変わるので
安心です

難点は、

贈与税が高額だったりすることでしょうか。
それさえ、問題なしとするのであれば、
これが一番お進めです。

というのは、

持ち主が死んでしまえば、やはり、
貰う予定の人の立場は弱いからです

たとえ遺言を公正証書で残しても、
立派な法律事務所を遺言執行者として指定しておいても、何がおこるかわかりません。

事情が許すのなら、生きているうちの贈与をぜひに。

 

 

遺贈は、
遺言書に遺言執行者を決めておけば、
大丈夫です(限界がありますが)

遺言執行者は、基本、誰でもよいのですが
受贈者本人を指定することもあります

 

が、受贈者本人を執行者に指定してしまうと

他の相続人たちの攻撃の矢面に立つことになる
とか、
押しに負けそうで希望を通せないかも
(被相続人の意思が実現されない)と
心配であるのならば

受贈者本人ではなく、信用のおける弁護士等を指名しておくのがよいと思います

 

 

先年、法改正があったこともあり
遺言執行者が選任されていると、かなり
遺志が実現されやすくなりました

 

(遺言執行者の権利義務)
民法1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる

 

1項の、遺言の内容を実現するため
というのは、

必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではない、とされています

~遺言の内容が(ほかの)相続人の意思に反していたとしても、職務執行する義務があるということですね。

 

が、やはりどう考えても、
所有者が死んでしまうと、贈与される側の立場は弱いです

きちんとした遺言執行者(法律事務所、信託銀行など)が選任されていたとしても、
相続人の中に発言力の強い人がいると、
最悪、その恫喝(!)にひるんで

遺言執行者が辞任してしまうということもあり得ます。

 

執行者不在で、あとは、
受贈者(遺贈を受けた人)が辞退すれば、

遺産は、相続人たちだけのものになり、
つまりは相続人の全員の合意があれば、
遺産を自由に分割することができるようになるわけです

受贈者に譲りたいと思った故人の遺志は
文字通り灰燼に帰すことになります

 

まあ、これはほぼ犯罪行為なので、ここまでやるか、というハナシではあります。

しかしながら
一見してそれとわからない巧妙な形での意思の強制というのは、わりと日常的に行われているのではないかな、
という印象はあります
当事者にもその自覚がないこともあって
そうだとしたら最悪ですが。

 

 で、どうするのか

 

結局は、状況全てを総合的に判断して、決断するしかないということになります

 

贈与税を負担してでも、生前に名義を変えておくか。

安全そうな死因贈与を選択するか。でも、税金が。。

やはり、公正証書遺言で、遺贈にするか

実に悩ましいところです。

 

一つだけ救いがあるとするならば、

先のことは誰にも、まるでわからないということです

 

法律も怒涛の勢いで改正されているわけですし
今日の安心が来年の非常識になりかねないことは確かです

 

生前贈与をして安心していたのに、
貰った方が事故で亡くなってしまったり、

全財産を渡した人が詐欺に合って身ぐるみ持っていかれたり。。

 

特に、相続関係において、
どのような順番で死亡するかによって、
まるで相続関係が変わってしまうことなどもあるわけですが、

人生において人の死亡時期ほど、
わからないものはないわけです。

わからないものはそれだけにとどまりませんが何があるかわからないのが人生であってだからこそある意味面白い(と言っては不謹慎かもしれませんが)のかもしれません。すべて想定通りに進行するならばそれはそれでつまらない出来レースのようなものに過ぎずスリルも喜びも味わうことができません。だとしたら敢えてそこに参加する意味はあるのかという話になりそうです
別にスリルも喜びも遺言遺贈死因贈与において求める必要はないと言えばそれまでですが。ふと、人生の意味を考えてしまいました。

なので、

死亡する順番がわからない以上、
財産の帰趨に悩むのも、ある程度
適当なところで諦めるほかないということでしょう。

 

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