発見されない遺言書

発見されない遺言書

 

なかったはずの遺言書が、出現する

 

泥沼的な、散々な遺産分割協議を経た相続登記が終わって、やれやれ、といっている間に、
どうしたことかとんでもない場所から遺言書が発見される!

このようなことが、あります。

 

こんな場所に遺言書が。

 

古い辞書をくりぬいた秘密の隠し場所にそれはありました。(古本を全部引き取ってもらう、そのときに何気なしに開けた本からこぼれ落ちたのです。)

作り話ではありません。

処分しようとしたタンスの隙間から出現することもあります。

布団部屋の古い布団の間から発見されることもあります。

 

さて、それでどうする?

 

相続人(相続権のある人)全員の同意があれば、すでに終えた遺産分割協議をやり直すことはできます。

相続登記を抹消して、再度、遺言が実現できるように登記し直すことも可能です。

 

これだけは、ご注意ください!

 

税金的には、ややこしくなりそうなので、もしも、再度の分割協議をする予定があるなら、税理士なり、税務署なりに相談なさることをおすすめします。

相続税の計算しなおしではなくて、贈与税がかかるようです。
専門外なので、詳しいことはわかりませんが。

 

遺言書を発見したら。

 

発見した遺言書は、

封をしてあったら、そのまま開封しないで
家庭裁判所へ持ち込み、
遺言検認手続をしてもらいます。

 

検認手続に必要なもの

 

検認のためには、

  • 被相続人の戸籍謄本
  • 相続権ある人全員の戸籍と住民票
  • 遺言書(開封してしまった場合は封筒も)

が必要です。

やたらに開封すると5万円以下の過料(罰金のようなもの)に処される(民法1005条)という決まりがあります。

だから、やたらに開けたくないですが、万が一、表書き(遺言書、という)がなかった場合など、開けてみないと何が書かれているかわかりません。

また、書いてあることが検認手続を要するような法的な遺言なのか、という懸念もあります。

「これまでいろいろありがとう。みんなで仲良く暮らしてください」
このようなものは、亡くなった方の思いがつまっているにしても、財産の処分等にかかわるものではないので、検認手続まで求められているものではありません。

つまり、事前に聞かされていたのならともかく、そうでない場合は、開けてみないと何がでてくるのかわかりません。「遺言書」だからといって開封しないでそのまま裁判所に持ち込むのはいかがなものか、、、という気持ちは、多くの人にあるのではないでしょうか。

なので、開封してしまったからといって、即、罰金という扱いではないらしいです。

もしもこれを知らずに開けてしまっても、その遺言がそれを理由に無効とされることはないので、ご安心ください。

ただし、検認が無事に済んでも、遺言としての条件を満たしてないという理由で、その遺言書でたとえば、土地や家の名義を変えられない、ということはあります

 

さて、遺言です。

 

遺産分割協議によって、ようやく、5人いる兄弟で、3棟のアパートを分けて登記をなした、というのに、その古本の間から発見された遺言書には、「末の放蕩息子に財産のすべてを相続させる」とあるのです。

 

放蕩息子は生業を持たず、その日暮らしのようなものでしたから、闘病中の父親とは必ずしもうまく行っていたわけではありませんでした。

しかし、父親が遺言の中でいうことには、


他の息子達はそれぞれに立派な職業と各々自分名義の家を所有し、生活に全く問題がないところ、末の息子だけは残念ながらそうではない。この息子は私がいなくなってしまったら、生活もままならないかもしれない。よって、全財産をその子に遺す、他の4人の兄たちはそれに協力してもらいたい


というものでした。

 

波紋が広がります

疑心暗鬼の波紋です。

日付から見て、それを書いたのは、たまたま末の息子が久しぶりの帰省を果たしていた時期に重なります。→ 脅して書かせたのではないか??

脅されないにしても、実は、ボケていたのではないか

一度は書いたものの、結局は破棄することにしてその辺においたまま紛れてしまったのでは→すでに遺言は本意ではなかったのでは??

同じく、破棄しようとしたときには捨てる気力もタイミングも失っており、せめて見つからないようにここに隠していたのでは??

 

遺留分があります

 

実際、末の息子が遺言の実現を望んだとしても、遺留分があります
遺言者が自分の自由に処分できるのは、この場合は全財産の2分の1です。(民法1028条 遺留分の額)
全部が末息子のものになるわけではありません。

他の兄弟は、遺留分の減殺請求をすることによって、それぞれ10分の1の財産をうけることができます。(4人全員が減殺請求をしたとすると、末息子は10分の6。しなければ、遺言のとおりに全財産が末の息子のものになります)

 

誰にとっても悩ましい問題です。

 

遺言書をなかったことにしてしまうのはどうか。



ちょっとびっくりですが、違法ではありません。

全員の合意さえあれば、遺言と異なる遺産分割協議をすることは問題ありません。

 

思いは深く海よりも。もしも本物だったら。

 

(4人の兄たち)年長者として、亡父の遺志を実現しないでよいのか

(末の息子)亡父の愛情を受け入れるべきか、兄達の気持ちはどうなのか?

(4人の兄たち)我々4人への、全幅の信頼だと受け入れてみたらどうか

(全員)しかし、本物なのか

(全員)だとしたら遺言のとおりにするのが一番よいのか

(全員)せっかく分割協議で全員納得して名義変更も終わっているのに、いまさらどうする?

 

要は、唯一の相続人と指名された末の息子の気持ち次第なのですが。

これが、愛という名の大きな風船か何かであれば、
「ありがとう、お父さん」
と喜んでうけとれるかもしれません。

「良かったね、弟よ、全部お前のものだよ。俺達はもう十分持ってるから」
ということになるのでしょう。

 

自筆遺言をお考えの方へ

 

これから遺言をなさる方は、その内容ももちろんですが、死後、適切なタイミングで適切な人に発見してもらうことも大事だ、ということをお忘れなく。

民法改正によって、自筆遺言書を法務局で保管してくれる制度が始まります。

詳細はまだ公表されていませんが、法務局で保管してもらえることは決定しています。本人が申請するので、少なくとも遺言にまつわる幾つかの疑念(偽造されたのか?誰かが隠してるのでは?)は生じないと思います。

遺言書についてご相談のある方は、どうぞ、ご連絡ください。