無効な遺言書とは?

遺言無効はどのような時に
主張されるのでしょうか

言い換えると、

その遺言が本当に無効だとしたら
理由はどのようなものでしょうか

代表的なものは、ふたつあります

 

1 形式的な無効

2 遺言者の意思の欠缺による無効

以上です

 

形式的な無効

 

形式上明らかに無効なものは
そもそも問題になりません。

わざわざ裁判で主張するまでもなく
誰が見ても無効だからです

たとえば
自筆遺言書において
ハンコが押されていないとか
日付が入っていない
全文を印字してあるなど。

 

裁判を起こしてまで主張するまでもなく
形式的に無効なので
その遺言書では、遺言の執行が
できません

つまりは不動産の名義を変えたり
預貯金を解約したりすることが
できないわけです。

 

ちなみに
自筆遺言書の形式的な要件は次のとおり

  • 本人が全文自筆
  • 日付書く
  • 印鑑押す 認め印で可 拇印でも可
  • 訂正加筆は適正に
  • 添付の財産目録にも各頁に
    署名捺印が必要

このようなものです

この要件を満たしていない遺言書は
言うまでもなく原則として
無効なので
特に問題にするまでのことはないと
思われます

 

なお上記の形式的要件を
明らかに欠いている自筆遺言書でも
(たとえば全文ワープロで作った遺言書)
裁判所の検認を受けることは
できるようです

ですが、たとえ
検認手続きを経た遺言書であって

形式的に要件を欠いている遺言書では
執行不動産の名義を移したり
預金を解約したりすること)
はできません

検認、すなわち
裁判所のお墨付きをもらえたので
執行もできるはず、と

ぬか喜びする方がおいでですが
そういうことはありません

くれぐれもご注意ください 

検認とは、裁判所が遺言書に
お墨付きを与える手続きではありません

 

一方、公証証書遺言においては

内容はともかく書面は公証人が作成します
なので形式的に誤っているという事態は
ほとんど
考えられないことではありますが

これもまた人間のすることなので
100%あり得ないというわけでは
ありません

たとえば
保証人(2名必要です)に欠格事由があった
など、遺言書の成立について
問題ありとされることが稀にあります

 

(証人及び立会人の欠格事由)
民法974条
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない

1 未成年
2 推定相続人及び受遺者並びにこれらの
配偶者及び直系血族
3 公証人の配偶者、四親等内の親族
書記及び使用人

 

 

本人が自分の意思で作成していない

 

つまり作成当時、判断力がなかったとか
第三者が偽造したものであって
本人は全然関与していない、などです

 

自筆遺言書の場合

特に、自筆遺言書では
これを争う相続人は多いです。

特に
同居している相続人にすべてを遺す
というような内容だと

  • 無理に書かせたとか
  • 騙して書かせたとか

いろいろな物言いがつきがちです

または
本人の字と違うようだ、とか
相続人の誰かが偽造した、など。

相続人が子ども3人ABCだとして
その内の1人Cだけにすべてを遺す
という遺言があった場合
他の子どもは納得できません

Cが偽造したのでは?
無理に書かせたのでは?
その頃もう判断力はなかったはず!
というようなものです

 

公正証書遺言の場合

また、公証遺言では

公証人によって本人であることの確認
および遺言意思の確認は
厳格にされるので

このケースは
考えにくいものですが

これもやはり、遺言無効が争われて
遺言書作成当時、すでに
遺言者の判断力がなかったとされた事例が
あります

当然、公証人は職務の執行にあたって
遺言者の意思の確認を行うわけですが

医師であっても判断力の有無について
正確な診断をすることは難しいと
されているところ

ましてや公証人は医師ではないので
たまたまそういうこともあるでしょう
としか言いようがないです

認知症などは
まだら呆けなどと言われるように

調子のいいときと、悪い時とあるようです

 

調子のいい時は、かなり頭脳明晰な感じで
切れ味もよく、とうてい判断力に
問題があるようには見えないのですが

悪い時には
お宅はどなた?というように
家族の顔もわからなくなるということも
残念ながら、あるようです


ちなみに、成年被後見人であっても
医師が2人立ち会うことによって
遺言をすることが可能です
(医者が立ち会えばどんな人でも遺言作成が可能ということではありません。ご注意ください
判断力がたまたまその時、正常に復したことを医師が診察証明した上で、遺言ができる、というだけのことです)

 

(成年被後見人の遺言)
民法973条
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時
回復した時において遺言をするには
医師2人以上の立会がなければならない

2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が
遺言をする時において精神上の障害により
事理を弁識する能力を欠く状態に
なかった旨を遺言書に付記して
これに署名し、印を押さなければならない


 

後日になって
実はあのときは遺言者は判断能力を欠いていたなどと裁判で宣告されたとしたら公証人は立つ瀬がないというかやりきれない気持ちだと思います

これは司法書士についても同様で同病相憐れむというか司法書士は登記申請において本人の意思の確認が必要とされているところ後になって実はあの時は既に判断力がなかったというお裁きが下されたとしたらどんなにか恐ろしいことかと思います

 

しかしながら、私たちは
専門の医師ではありません

医師でも専門家でもない以上は
ベストを尽くして持てる知識と経験の
すべてを使って
ことにあたることしかできません。

そして全力を尽くしてのちに万が一
そのような事態となってしまったら
そのときはもう潔く謝ることしか
残されてません

仕方ないです。人間だもの。

 

公正証書遺言においても、このように
被相続人の判断力が争われて
遺言無効とされた事例は何度もあります

なので
公正証書遺言だからといって
安心したり、または
諦めたり、することもないのかなとは
思います

これは間違ってる!と思うのであれば
きちんと自分の権利を主張した方が
よいかもしれません

でも、しない方がよいかもしれません。歯切れが悪いですが
家族関係は微妙なので。

言わぬが花とか、損して得とれとか、負けるが勝ちとか
人の価値観はそれぞれで
それぞれに真摯に咲いている花であることだけは
間違いないです 信じた道を進みましょう