残念な自筆(?)遺言。。。
せっかく遺言を書いたのに
自筆遺言書の作り方は、内容にもよりますが
全部を妻に残す、などであれば、簡単です
ただし、
字が書けさえすれば。
この部分を冗談と思う人がいますが、
これが実はポイントです。
何かの事情で、自分で字が書けない人は
自筆遺言ができません
公正証書遺言等を選択する道しかありません。
また、
法務局で保管する自筆遺言書という制度も
ありますが、これについては、
自筆といっても様式に制限があったり
(紙のサイズとか、裏に書いてはいけないとか)
予約が必要だったりなど手続きが若干面倒で
しかも、
本人が法務局へ出頭する必要があるなどして
やはり、自宅保管の自筆遺言書の方が
カンタンです
ですが、法務局保管の遺言書については、
よいところが3点あります
もくじ
法務局保管遺言のよいところ
1 死後、家庭裁判所の検認をうけなくてよい
自宅保管の自筆遺言書は、
家庭裁判所において検認手続きが必要です
そのための期日が設けられることになるので
必要な戸籍などをそろえて提出してから
さらに少なくとも1か月はかかります
反面、
公正証書遺言もそうですが、
法務局保管遺言だと、その検認手続きが
不要です。
なので、
特にすみやかに財産の名義を変更したい事情のある方にとっては、
自筆遺言(自宅保管)は、
あり得ない選択かもしれません
2 形式的な誤りを指摘してもらえる
致命的な誤りがあった場合でも、
形式的なものに限られますが、
チェックが行われます
つまり、
それらを訂正しない限り受け付けてもらえないので、安心です
ただし、
遺言の内容について審査するわけではないのでご注意ください
自筆で書かれているか、とか、
日付が書かれているか、捺印はあるか、
など
民法で示された自筆遺言の形式についてのみ
チェックがされます
3 遺言書が紛失することがない
法務局に遺言書を預けてある、と知らされていなくても、誰でも
法務局(全国どこでも遺言書保管事務を行っている法務局)に調査に行けば、
遺言書を遺しているかどうかわかります
法務局における遺言書の保管等に関する法律
(遺言書保管事実証明書の交付)
第10条
何人も、遺言書保管官に対し、遺言書保管所における関係遺言書の保管の有無(・・中略・・)を証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができる
ですが、
自宅保管の場合は、
誰かに保管場所を伝えておかない限り
発見されないまま終わることもあります
自筆遺言書のよいところ
ですが、
足が弱って法務局までいけない、とか
戸籍をそろえて公証役場へ行くのも面倒だし
費用もかけたくない、というような場合は、
自筆遺言(自宅保管)に勝るものはありません
また、
時間がないとき、
遺言を書こうと一念発起したときに、
法務局保管の方は予約が必要です。
どうしても今日中に書いておきたい事情が生じたときに、
この迅速さ、という点において、法務局保管は後れを取ります。
公正証書遺言
内容が緻密でデリケートなものだった場合は
公正証書による作成をお勧めします
公正証書遺言も、死後に
家庭裁判所の検認をうける必要がありません
さらに、
形式的にも内容的にも、
公証人のチェックが入っているので、
その遺言の書き方が良くなかったために
遺言が実現されない、という心配がほぼありません。
当然ですが、税金について不安があるときは税理士に相談の上、遺言を作成することに
なります
時間や、予算にゆとりのあるときは、
これが一番お進めです
自筆遺言のひな型
自筆遺言をお進めすることが多いのですが、ご希望に応じてお手本的なものを
提示することがあります
このような感じで書きましょう
必ず、全て、ご自分でお書きください
遺言書
私は、全ての財産を妻である に
相続させる
令和5年1月3日
本籍
住所
氏名 印
ご注意
- 全文を自筆で。
- 鉛筆は不可。ボールペンがよいです
- 便せん、コピー用紙のようなものに書きましょう
- 適当なものがなければ広告の裏でも大丈夫です
- 日付は 吉日、というのはダメです。
- 日付が特定できるように書きましょう
- 認め印でよいので印鑑を押しましょう
- 拇印でもよいという判例がありますが
念のため、やはりハンコがよいです
信じたくない実話
このような感じで、せめて自筆遺言を!と
推進している当職なので、
上記のような文書をそのままお渡しすることがあります。
そうしたところ
ある方の死後、
お渡ししたそのままの用紙に、
まさかの、
空欄を埋める形で本籍住所氏名だけが
自書されていた!!!
ということがありました
なんということでしょう。
それでは、自筆の遺言書とは言えません。
全文というのは、
遺言書の全部ということです。
本籍住所氏名だけを自書しても、無効です。
自筆遺言書としての形式的要件を欠いているので、遺言書として認められる余地は
ありません。
残念ですがせっかく書いた遺言(的なもの)は、お役に立つことができませんでした。
もう、これは、残念というかなんというか
お目にかかって、必ず全部手書きで、と
ご説明はしたのでしたが。。。。
民法の要求する形式的要件
(自筆証書遺言)
民法968条(超訳です)
遺言をするには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印をおさなければならない
2 相続財産目録を添付するときは、その部分については、自書でなくてよい(ワープロ印字などでOK)その場合は、その目録のすべてのページについて署名と印が必要(裏に記載があればそこにも必要)
3 加除その他の変更については、厳格な様式が定められていて、それがきちんと守られていないと無効
まとめたい
子どもがいないご夫婦だとしたら
相続権のあるのは、配偶者と
故人の兄弟です
故人の兄弟も何人もいるし、そのうちの何人かは亡くなっていて、子どもがいるらしい。というような場合、
遺言書さえあれば、
「妻にすべてを遺す」
その疎遠になった兄弟(およびその子どもたち)のハンコを貰う必要がありません。
加えて、兄弟には、
遺留分というものがないので、
「妻にすべてを遺す」と書いてありさえすれば
その遺志は問題なく実現されたはずなのです
ところが、
遺言がないとしたら、
全く付き合いのない兄弟の子供からも、
ハンコを貰わなければなりません。
昨今、
そのような相続人は、当然のように
法定相続分を現金でほしい、と
要求してくることが多いです
それは民法で認められた当然の権利ではあります
ですが、
めぼしい遺産が自宅のみ、というような場合は
非常に苦しいことになりかねません。
自宅の財産評価が1600万円だとしたら、
配偶者法定相続分は1200万円(4分の3)
兄弟は400万円(4分の1)です
どうか、自筆証書遺言は財産目録部分をのぞいて
必ず、全文自筆でお書きください
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