死にそうなときの遺言の仕方

特別方式の遺言とは何?

普通の遺言はこのように

 

遺言は、通常多くの場合、

  • 自筆遺言 自分で作成して自分で保管
  • 自筆遺言 自分で作成して法務局で保管
  • 公正証書遺言  公証役場で作成・保管

これらのうちのどれかを
状況に応じて選択することになります

 

これ以外にもいくつかあって、
民法で定められてはいますが、開業以来
普通方式以外の遺言については、一度も
相談されたことがありません。

これは、それらが必要ないからというよりは
おそらく、そのことの存在が
知られていないからなのかもしれません。

遺言といえば、
自分で書くか公証人に頼むか、というのが
一般的なところでしょうから。

あるいは、緊急時遺言などは、
事の性質上(なにしろ緊急時なので)
人に相談する余裕がないのかも。

いずれにしても事前に知識を得ておくことは
何か不測の事態が発出したときに役にたつことがあるかもしれません。

 

普通の方式による遺言の種類

 

民法967条
遺言は、自筆証書、公正証書または秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

 

さて、
いずれにもメリット・デメリットがあり
自筆遺言については、全文自書という壁
立ちはだかっています
現行法下では財産の明細部分については特例あります
つまり、字を書くことができない状態の人は
自筆遺言は残せません

 

ですが、
そのような状態の人であったとしても
公証人は出張してくれるので、

たとえば、
病室まで来てもらって遺言をする、
ということは可能です

公正証書遺言ですね。

少々費用がかかるのと、
ほとんどの場合は、
戸籍謄本や不動産の評価額証明書等
を揃えるように求められるため、
緊急時には、対応が難しいかもしれないです

遺言時の事理弁識能力

 

言うまでもないことですが、
いかに緊急時遺言といっても、
意識がはっきりしている必要があります。

意識が不明となったり、
意識が混濁状態であれば、いかなる遺言も
することは不可能です

 

死にそうなとき!の緊急時遺言

 

さてここで、
意識もあり、遺言能力もあるにもかかわらず自分が何をしようとしているのか、その結果がどのようになるのか推察することができる 事理弁識能力を有するということ

だがしかし、全身状態がよくなく
病床から起き上がったり、ましてや
自分で字を書くことは困難。
せいぜい、できるのは、署名くらい
といったとき。

このようなときに、民法で定められた
遺言の特別の方式があります

 

死亡の危急に迫った者の遺言

民法976条
1 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会をもってその一人に遺言の趣旨を口授して遺言ができる

(中略)

証人は誰でもよいわけではありません
(あとで書きます民法974条

4 この遺言は遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ効力を生じない

5 家庭裁判所は、この遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければこれを確認することができない

 

ですが、これで作成できたからといって
安心してはいけません。

この方式はあくまで、
緊急時にやむを得ない状況でなされたものなのです

ひょっとして、それほど緊急でもないのに
便利だからという理由で気軽に作成されたとしても(まさかそんなことはないでしょうが)
くれぐれも、
次の重要な定めがあることをお忘れなく。

遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになったときから六ヶ月生存するときは特別の方式による遺言の効力はその効力を生じない(民法983条)

 

ま、気軽に作ると言うより、
本人の真意に基づかない遺言。つまり、
不正な遺言がこの方式を利用して作出されることが問題な訳なのですが。

 

 

あとは、

伝染病隔離者の遺言

民法977条
伝染病のため行政処分によって交通を立たれた場所にある者は、警察官1人証人1人以上の立ち会いをもって遺言書を作ることができる(遺言者筆者立会人証人全員は、各自遺言書に署名し、押印すること)

 

在船者の遺言

 

民法978条
船舶中にあるものは、船長または事務員一人および証人2人以上の立会をもって遺言書を作ることができる(遺言者筆者立会人証人全員は、各自遺言書に署名し、押印すること)

 

船舶遭難者の遺言

 

民法979条
船舶が遭難した場合に、その中で死亡の危急に迫ったものは、証人二人以上の立会をもって口頭で遺言できる (証人が筆記し、署名捺印する

遅滞なく家庭裁判所の確認が必要です

 

証人立会人の要件

 

以上の緊急時の遺言についても、
証人、立会人の要件が定められています

この部分は普通遺言、例えば
自筆の遺言時の証人要件と同一です

証人および立会人の欠格事由
民法974条
次の者は遺言の証人または立会人になれない

・未成年者
・推定相続人 受遺者 それらの配偶者および直系血族
・公証人の配偶者 四親等内の親族、書記及び使用人

 

 

このようにして必死に遺言をのこしたとしても、次の大事な要件をお忘れなきように。
もう一度書きますね。
なにしろ、普通の遺言ではなく、
緊急時の特別方式の遺言なのです。

特別の方式による遺言の効力

 

そのまま油断していると、
6ヶ月経過とともに無効になります!!

状況が改善して元気になったら、
自筆遺言をするなり、
公証人を訪ねるなりして
必ず普通方式の遺言書をお作りください

 

特別の方式による遺言の効力
民法第983条
この規定によりした遺言
民法976条死亡危急者の遺言
民法977条伝染病隔離者の遺言
民法978条
在船者の遺言
民法979条船舶遭難者の遺言 は、
遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになったときから六ヶ月生存するときは、その効力を生じない

 

遺言書をお作りになる予定のある方は、
切羽詰まってから作るのではなく

まだまだ死ぬことなど考えられない、
というくらいに元気なときに作りましょう

いつでも作れる、と思っていると、
必要が生じたときは、その元気も能力も
失われていることが多いです

よい遺言は、
体力・気力ともに充実して

たっぷり余力があるうちにしか作れません

ご健闘を祈ります