放棄後の責任?

全員が放棄したら、そのあとは
どうすればよいのか

というか、そもそも

相続放棄することによって
被相続人の財産に属した一切の権利義務から
逃れることができるはず!
ではなかったのでしょうか

(相続の放棄の効力)
民法第939条
相続の放棄をした者はその相続に関しては
初めから相続人とならなかったものと
みなす

さらに、相続放棄の効力は
何人に対してもその効力を生ずべきもの
と解すべきという判例もあります

 

放棄した後の責任?

 

それなのに、放棄したのに更にまだ
負うべき責任というものが
あるものでしょうか

 

ところで

相続放棄した人の責任といえば、
まずここで
2023年4月から施行された
民法940条を思い出す方もおいででしょう

 

(相続の放棄をした者による管理)
法940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に
相続財産に属する財産を
現に占有しているときは
相続人または相続財産清算人(952条第1項)
に対して当該財産を引き渡すまでの間
自己の財産におけるのと同一の注意をもって
その財産を保存しなければならない

 

自己の財産に置けるのと同一の注意とは
文字通りの意味であるようで

たとえば自分の持ち物を
敢えて壊したり傷つけたりはしませんが
その程度の注意義務で足りるということです

意図しないで壊れてしまった場合は
別に捨ててしまっても
問題は生じないでしょう

自分の時計が壊れたときに
修理費用が過大であったりしたらそのまま
捨ててしまうこともあるように

自己の財産におけるのと同一の注意は
さほど厳格な注意義務ではありません。

壊れたものを廃棄したからといって
義務違反をとがめられることはありません

 

 

一方で、相続財産清算人などには
善良な管理者としての注意義務
課せられていて

その任務に従い
きちんとした管理をすべき
とされています

 

この改正法が施行されるまでは、
放棄した人
~実際には順番的に最後に放棄した人~は

何かあったら管理責任を問われるという
わりと苛酷な法律でした

しかしようやくこの改正が行われたため
放棄した人は
占有してなかった不動産について
少なくとも条文上は
責任を負わされる恐れはなくなりました

 

ちなみに、改正以前に放棄した人にも
この改正民法は適用されます
経過措置が定められていないため) 

つまり
10年前に放棄した人も昨日放棄した人も
等しく新しい940条が適用されます

 

ということなのですが、このように
条文上は、何かあったとしても
占有していなかった相続人が
責任を問われることはないようですが

 

実は、実は、

このままだと

放棄した相続人が請求を受ける可能性
大です。

 

 

放棄しても、責任は残る

 

正式に国の所有となっているのであれば
当然管理責任は国にあるわけですが

相続人が全員放棄してしまった
だけの状態では
国が所有者とはいえません

 

周りを見ても
相続人全員が放棄をしてしまい
債務はないにしても

農地や被相続人がひとりで住んでいた住居は
そのまま。というハナシは
いくらでもあります

何かあったらどうなるんでしょう?

それでも、何かある前に
ご相談においでくださった方は
立派だと思います

相談もせずにそのまま放っておく
という人は多いです

 

でも全員が放棄している。

 

本当の意味で義務から解放されるには

 

(相続財産法人の成立)
民法951条
相続人のあることが明らかでないときは
相続財産は法人とする

 

この条文に注目する必要があります

 

誰が何をしなくても自動的に
相続人全員が放棄したら
相続財産は相続開始日にさかのぼって
相続財産法人になります

ただし、こうなっても例えば
登記簿上の記載は亡くなった人のままです

登記をすべき権利義務のある人が
いない状態だからです

 

 

このあとは
相続財産清算人が選任されてのちに
一連の手続きがされることになります

 

相続財産清算人にまかせる

 

具体的には

 

 利害関係人(相続放棄した人や債権者など)
または検察官が

 家庭裁判所に申し立てをして

3 相続財産清算人を選任します

 

申立てにあたっては
印紙代800円と切手代1000円位
(裁判所によって異なります)が必要です

やはり一番問題になりがちなのが
裁判所に予納金を納める必要があることです

遺産の多寡によって予納する金額は
変わるのではないかと思いますが

少なくとも数十万円はかかります
(たぶん)

遺産があれば立て替えた分は戻ってきますが
もしも債権者に弁済などしたあと残りがなければ
立替分は、申し立てた人の出捐となります
(返してもらえない)

 

放棄した人は
財産を清算人に引き渡した時点で
責任は消失します

 

(相続の放棄をした者による管理)
民法940条
相続の放棄をした者は、その放棄の時に
相続財産に属する財産を
現に占有しているときは
相続人または相続財産清算人
(952条第1項)に対して
当該財産を
引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと
同一の注意をもって、その財産を
保存しなければならない

 

 清算人は、相続人や相続債権者および
受遺者の探索を行います
6か月以上公告する

また、相続財産についても調査を行い
不動産が含まれている場合は
裁判所の許可を得て換価したりして
分配に適するようにすることも行われます

 

5 それでも名乗り出てくる相続人や
権利を主張する者がない場合は

6 特別縁故者がいたら、このあと
3か月以内に裁判所に請求をすることにより
相続財産の全部または一部の分与を
うけることができます

 

 

特別縁故者

 

特別の縁故とは

・被相続人と生計を同じくしていた者
(内縁の妻とか)

・療養看護に努めた者
(看護をしていた義理の娘など)

のことですが

特別縁故者と認められるかどうかは
裁判所が判断します

宗教法人、学校法人や
収容されていた養老院をもつ町も
特別縁故者になるという判例もあります

また別の判例では
具体的かつ現実的な精神的物質的に
密接な交渉のあった者で
相続財産をその者に分与することが
被相続人の意思に合致するであろうと
みられる程度に
特別の関係にあった者をいう
とされています

 

これらにより、

7 債権者からの請求のあった
債務を支払い、特別縁故者に分与し

8 清算人報酬(裁判所が決定します)を
差し引いて

9 さらに残りがあれば、清算人から
国庫に引き継ぐという流れになります

(これで一件落着)