押印は、何のため?

で、押印は、何のため?

そして誰のため?

 

近頃、様々な局面で、押印が省略されつつあります。
歓迎すべきことだと思います

どう考えても無意味な押印慣行というものがあって、特に
認印を押す、ということの虚しさ、に世の中の常識が追いついてきたということでしょう

 

翻って、不動産登記においては、
押印を求められるのは、アタリマエのことです。

もはや、非常にありふれていて、
署名のみで押印がいらないという局面は
ほとんどありません。

登記法上は、押印がいらない書面もあるのですが
怖いので、基本、署名した人にも捺印はお願いしています

 

これらに押印が必要です

登記用の委任状
登記原因証明情報
解除証書
担保設定証書など

また、

不動産の契約をすれば、その契約書
売買をすれば、領収書

まあ、それでも売買契約書などには
押印がなくても有効なようですが、
後日の証のために、できれば、実印を押していただきたい、と思うものです。

法律上の要請ではないので、無理にとは言いませんが。

 

物事が円満に平和に進行しているときに
「将来の万が一のことを考えて、証拠能力の高い書面を残したい」とは
言えないものです。まあ、
「ついでなので、こっちにも実印でお願いします」くらいは言いますが。

 

 

さて、近頃の感染症下において、
直接面談ではなく、書類を郵送でやりとりすることが増えました。
そこで、捺印問題です。

 

・認印で済むものは、
ハンコ印影らしきものが押してあればそれで大丈夫。

 

・問題は、実印が必要なときです。
この押し方では登記が通らない、
という印影がけっこう多いです。

 

登録した印鑑を押しているのに
どうしてこれではいけないの?

お思いのあなた!

 

同じ印鑑を押せばよいわけではないのです。
同じ印鑑を押していることがわかるように押していただきたいのです。

 

実印とは

 

不動産登記で実印が必要というときは
必ず印鑑証明書も同時に必要です

印鑑証明書がないと、
押したものが実印かどうか調べようがないからです。

 

不動産登記令第18条

(代理人の権限を証する情報を記載した書面への記名押印等)
委任による代理人によって登記を申請する場合には、申請人またはその代表者は法務省令で定める場合を除き、代理権証書に記名押印しなければならない。

2前項の場合において、その書面には、法務省令で定める場合を除き、記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない

3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後3ヶ月以内のものでなければならない。

 

法務省令で定める場合として

不動産登記規則第49条で、
委任状への記名押印・印鑑証明書不要の特例が掲げられています

権利を得るだけつまり、
売買の買主や、抵当権抹消時の所有者
住所変更する時、相続する人 などについては、
印鑑証明書は不要です

すなわち、その場合は、
捺印は実印でする必要はなく、
登録されていない印鑑で大丈夫ということです。

 

会社の実印(登録印)

 

また、
法人等で印鑑証明書が必要な場合は、
近頃、登記には添付省略できるようになりました。

ですが、申請する司法書士としては
それが実印かどうかは印鑑証明書を見ないと調べようがありません。
登記所には、調査権限があるので、問題ないです

というわけで、
登記自体には添付する必要はありませんが、
司法書士が実印確認するためには、必須です
ご面倒でも、ご用意ください

 

実印が必要な登記

 

・権利を失う登記、土地を売るなど。

・権利に制限をかける登記、土地に抵当権をつけるなど。

そのようなときは、権利を失ったり、
制限をかけられたりする側から司法書士への登記委任状には
実印および印鑑証明書(発行後3ヶ月以内)が要求されます

 

 

認め印等で足りる登記

 

逆に、
土地を買う側や抵当権をつける側(お金を貸す方)からの
司法書士への委任状は
認め印、いわゆる三文判で足ります。

要は、朱肉がついていれば、OKという感じ。

どこまで、OKなのかは、試してみたことがないので、不明です。
たとえば、ハンコの頭の方を使って、朱い丸を押す。これは、一度は試してみたいところです。
芋版(いもばん)でも大丈夫と、先輩司法書士(法務局出身者)に聞いたことがあります

ただし、
シャチハタ印は、

ハンコではなく、スタンプであるという理由
(と言われている)から、

不可とされています。

 

印鑑証明の取得方法

 

ちなみに、個人(自然人・私やあなた)の
印鑑証明書は

・登録する

住所地の市町村役場のおそらく住民課で
まず、登録します   これは無料

 

登録する印鑑の条件(大きさとか、文字とか材質など)については、それぞれ、自治体によって決まりがあります

普通に考えて問題がないと思われるようなものは、大丈夫です。

これはどうだろう?、微妙では?登録できるかな?
というようなときは、事前に窓口に相談したほうがよいかと思います

 

登録の際は、厳重な本人確認が求められます

顔写真付きの証明書(運転免許証やパスポートなど)がない場合は、
郵送での本人確認など、市町村によりますが
それぞれにかなり面倒な手続きが必要です。

これは第三者が、勝手に本人の印鑑を
偽造登録したりできないようにするためです

 

・発行

登録が完了したら、印鑑カードが発行されるので
印鑑証明書の請求をすれば好きなだけ発行してもらえます。
証明書は有料です

印鑑を登録する時に、
文字が氏名と違っているのでは?とか大きすぎるのでは?とか、いろいろ言われたとしても、登録されてしまえば、それが実印です。

 

実印とは、すなわち、
上記法律に従ってさらに厳密にいうならば
印鑑に関する証明書を取得できる印鑑です

登録されていれば、
どんなに奇妙なものであっても実印として通用します。

 

なお、他の市町村へ引っ越ししたあとで、
同じ印鑑を登録しようとしても、
その自治体の基準を満たしていないため
せっかく作った印鑑を実印として使えないということもあり得ます。

なのであまり変わったものは、どうかな、と思います。
でも、残金の決済の場で、
変わった印鑑が登場すると一気に場が盛り上がるので、
やるだけの価値はあるのではないでしょうか

ただ、盛り上がったからと言ってどうなるというものではありません。

 

実印を押すということ

 

というように、実印を登録するのは
本人でなければできません。

また、
印鑑証明書を取得する際は
登録時に本人あてに発行される印鑑カードが必要です

また、
その登録した実印を所持しているのは
基本的に本人です

 

以上のような具合で、登記の際、

本人であること
および本人の申請意思に基づくものであること
形式的に担保するために
法律(不動産登記法)が要求しているのが
実印および印鑑証明、というわけです。

 

押印は鮮明に

 

というわけで、押印は大切です

なので、くれぐれも
印鑑証明書で証明されている印影と同じもの
書類の方にも押していただきたいものです。

単に同じ印鑑で押せばよいのか、というわけではないので、
ご注意ください。

同じ印鑑で押したことがわかるように押してください。

半分かすれていたり、歪んでいたり、古い朱肉で油で滲んでしまっているようなものだと同じ印鑑を押しているかどうか、わかりません。
また、朱肉をたっぷりつければよいのかとばかりに、つけすぎの場合もよい印影は得られません。

もちろん、

押したご本人にしてみれば、
同じ印鑑(実印)を押しているのに、
どこがいけないの?

とお思いになるでしょうが、が、が、
いけないのです。

印鑑証明書と同じ印鑑を書類に押している、
ということが
司法書士に、法務局に、わかるように
押してほしいのです。

 

印鑑は、鮮明に、文字と重ならないように
押してください

文字と重なるように押したい方がおいでですが
印鑑証明書との照合が困難になりかねないので、
重ならないようにお願いします

 

なお、朱肉というものは、あまり一般的ではないのか、郵送で書類をお願いしたときに、明らかに、これは朱肉がないのだ、とわかる印影の方がおいでです。

その時のために、携帯用の朱肉を貸し出しておりますが、これを使ってもらうと、きれいな別物のような印影を押していただけます。

登記の委任状に必要なのは、そんな印影です

 

 

なお、実印および印鑑証明書は、あくまで
法務局の形式的な審査の一助に過ぎません。

本人申請(司法書士を介さずに、自分で登記をすること)の場合は、それで済みます。
登記所は原則として書面審査だからです。
登記所では、それ以上のたとえば面接して聞き取り調査をするとか、他の審査は原則、ありません。

 

おまけ。司法書士のプラスアルファ

 

ですが、

司法書士が委任を受けて登記申請する場合は
さらに、こうした形式的なものだけでは足りません。
次のような確認も必要とされています

 

本人が登記されている人と同一人であり、
かつ、
不動産はどれか、というモノの確認
および
登記申請の意思を有しているかどうか
まで確認することになっています。

 

なので、司法書士の確認としては、
実印と印鑑証明書だけでは、不足です。

 

数十年前までは現在のように司法書士の義務についてうるさく言われることはなかったらしく、当時の司法書士は実に大らかというか鷹揚なものだったようです。

白紙の委任状と印鑑証明書さえあれば、それだけで何でもやったという司法書士も存在していた模様です(権利証なくても保証書でバンバン登記をしたらしい)

そのかわりに、また、泣かされた人もけっこういたようで、
頼んでいないとこまで全部売られた、とか
勝手に全部抹消されたとか、
かなりスリリングな話を聞いたことがあります。

 

で、一方、現代の司法書士としては、

 

面談して、免許証などを見せてもらい、
本人であることを確認したり
たとえば、実際に
その不動産を売る意思・及び登記する意思を有しているかどうか
確証を得られるまで何度もお尋ねします。

 

面倒だ、失礼だ、とお思いの方
お怒りの方もおいででしょうが
どうかご理解ください