意思確認というハードル

当時者の意思確認がどうもなんとなく
失礼ながら微妙な感じなときは。。。

詐欺というわけではなくても、やはり
特に近頃問題になるのが
当事者ご本人の
意思の確認ができるかどうか、です

意思の確認ができないことには
司法書士は登記申請をすることが
許されません

代理してる(本人の)息子が
売るって言ってるんだから
それでよいのでは?

というようなことは
一昔前まではよく仲介業者さんから
聞かされたセリフでしたが

近頃はこういった認識でいる方は
少数派となりました

ただ、個人間売買となると話は別です

昔はそれで通っていたかもしれないですが
今は、(司法書士が介入していたら)
残念ながらそういう具合にはいきません

 

特に高齢者意思の確認が微妙なとき

 

「絶対大丈夫だから、本人は口がうまく
聞けないだけで、しっかりしてる。
こっちの言うことは全部わかる。
問題ない。会えばわかる」
などという
甘言に誘われて
病院や高齢者施設に行かされたことが
何度もあります(実は、このセリフを
聞かされた時点で、あぶないな、と思っています
過去に何度が無駄足を踏んだ経験があるので

実際、ほとんどの場合は
無事にいわゆる本人確認および
登記意思の確認は滞りなく済ませることが
できたのですが

全然太刀打ちできないことも
またあるわけです。

  1. 何を言っても、激しく泣く
  2. 何を聞いても、返事が「おう」
  3. 私の声が聞こえない
  4. 私と視線を合わせてくれない
  5. 返事は全て元気のよい「ハイ」 ??
    念のために
    「売らないですよね」
    と聞いてみたら、返事は案の定
    元気のよい「はい」

 

このような時は、いくら何でも
意思の確認は不可能です

 

上にあげた1~5のすべての場合に
家族または仲介の業者さんが
同行しているので

それぞれについて理由というか
言い訳というか
その返事や態度の読み解き方
(機嫌の悪い時はこうなんです。
ちょっと拗ねてみてるだけです。
今日はたまたま調子が悪いみたい。
いつもはふつうに返事をしてくれます。
昨日も土地が売れたら溜まってる支払いが
できるからね、と二人で話したばっかり・・)
などなどレクチャーが入ります

いやいやいや、それはおそらく
本当でしょうけど、私には、そのようには
聞こえません

 

聞こえてないみたいですよ
申し訳ないですけど
売りたくないように見えます
これでは残念ですけど
確認はできないですね
せっかくですけどまた機会を
改めまして。。。


等、激しく謝り(何故かワタシが謝る!)
登記は引き受けられないことを説明し

非常に気分を暗くしながら
帰途につくわけです

その土地の売却ができなければ
たまった支払いができないというのは
おそらく本当なのでしょう。私が
「これで大丈夫です」と一言言いさえすれば
全て円満に済むかもしれないのに。。。

自らの保身に走るあまりに
弱者を切り捨てているのでは?

 

ですが

実は、全て円満に進むわけではありません
ここが恐ろしい所でもあります

 

もしも、誰かに所有権移転がされたあとで

万が一、

不動産など売れたはずはない。この
売買日とされてる頃、○○は
認知症~心神喪失状態だったので
その診断もされていたはず。売買は無効!

と本人またはその家族から主張されたら
私には抗弁する余地はゼロです。

ここまで来たら
「あのときは売るってはっきり言いました」
という司法書士の主張は
裁判になったら
認められない可能性があります

 

ちなみに

心神喪失状態の人からの所有権移転は
無効なのでその相手方は所有権を
取得しません。さらにその相手方から
所有権移転を受けた第三者も
無権利者からの所有権移転なので
所有権を取得できません。

相手方に対して損害賠償請求ができるだけです

 

冗談もほどほどに

 

なお、よく、初回のご面談の際

母親から息子への生前贈与の場合など

 

息子
「ウチのおばあさん(母親のこと)
もう呆けてるから(笑)・・」

母親
「もうこの歳になると
何が何だかわからなくて(笑い)・・」

と軽口を叩く方がおいでですが
これはやめてもらいたいと思うものです

本当であるならば、その情報は
有益で貴重なものなので、有難く承り
結果としてそのご依頼は
お引き受けできないということになります

ですが

単なる冗談であるならば
混乱のもとになります

 

私の親戚にも妙なセールスが来ると認知症のふりをして撃退するという強者が実際に何人も(!)いますが登記のご依頼を頂くときには自粛してもらいたいと思います

 

まあ経験上
自ら、呆けている、と発言する人は
大丈夫なことが多いです

 

本当に呆けている人は
このような感じです

司法書士との面談の際に
主導的立場のひとから事前にアドバイスが
されていることがほとんどなので

生年月日と名前(ついでに干支も)を
間違えないように
そして
「売ることに間違いありません」
と言うこと。

 

と、

コーチング?(進言)されている模様。
それらの情報を異様にはっきりと
教えてくださいます

或いは、何を尋ねても
「間違いありません」としか言わない方も
おいででした
(これでは、判断力が正常であるとは
思えないですね)

当方は、当然ながら医師ではないので
認知症であるかどうかの
判断をするわけではなく、単に

不動産を売却する意思があるのかどうか
をお尋ねするにすぎません

極論すれば

普段は多少認知能力に問題があったとしても

ご自分が
どこの誰であって
この不動産を売却するのだという意思
それさえ確認できれば
それ以上のことは求めるつもりは
ありません

特に売主側の関係者にとっては
それ以上面倒なことを司法書士に
期待する人はいないとは思いますが

司法書士は
売主側のためだけに存在するのではなく
買主のためにも存在しています

万が一、判断力の衰えた所有者による売却が
後日

無効の訴えを起こされたとしたら
困るのは、買主様です 

裁判で無効な売買だと判断されたら
買主は所有権を
取得できません