代筆はどこまで許されるのか

代筆はどこまで許される?
そのアウトとセーフの境目はどこ!

 

たまに、
代筆でお願いしますとか
代筆してもいいですか、と
聞かれることがあります

 

理由は様々で、

  • 腕を骨折していて痛くて書けない
  • 起き上がれなくて苦しくて書けない
  • 物理的にこの場所にいなくて書けない
  • 字が汚いからイヤとか
  • 手に力が入らなくて書けない
  • 人前だと緊張するので書けない
  • 視力が弱いのでよく見えない
  • 事務仕事は夫(または妻)に任せている
  • 本人に知らせてないからワシが書く
  • 本人呆けていて書けない(!!)

等々、実にいろいろです。

(冗談でおっしゃってるならともかく、最後の2つの代筆はだめです。これは、代筆ではなくて、偽造なので念のため。)

 

○ そもそも代筆はアリなのか

 

そもそも基本的に大事な署名は
ご本人に書いていただきたいです。

謙遜して乱筆を理由に書きたくない人には、他の誰が見るわけでもないということを納得していただいて何とか書くように励まします

緊張のあまり震えてしまう、という方も同様です。あっちにいっていますからその間に書いてくださいとお願いします。

将来何かあったときに備えて、やはり、ご本人の自書以上に確かな書証はないからです

 

そういう理由で、謹厳な司法書士は
対面でしか仕事を引き受けないとか
本人が自筆できないときは引き受けないとか
ガイドラインを掲げています。
取引の安全を守り、権利を守り、自分を守るためです。

 

が、現実にはそういうわけにも行かないときがあって、実は私はそれを許容するものです

 

具体的に言えば、

本人が目の前にいて、
同道している家族等に代筆を
依頼しているときは、
問題あるとは、思いません

 

また、
本人が肉体的な理由で(骨折・弱視等)
字を書くのが困難というときは
当方に代筆依頼があれば、
お引き受けしています。

 

あくまで、代筆であって、
代理ではないこと

ご注目ください

ここは、重要です

 

○ 代理と代筆はちがうものか

 

代筆(だいひつ)は
代わりに書くだけ。です。

代理(だいり)は
本人のする法律行為を
本人に代わってすることなので
代筆とは別物です。

たとえば、
土地を売るという意思表示をできるのは
本人または、
本人の代理人(法定代理人とか任意代理人)
だけです。
(代理人の行為の結果は全て本人に帰属します)

が、

代筆は、本人の承諾さえあれば、
誰でもできます

それは、法律行為ではないからです

 

なので、くどいですが、

法定代理権または任意代理権があれば
勝手に書くのは
問題ないですが、

それがないのに勝手に代筆するのは、
代筆でも代理でもなく

文書偽造(ぶんしょぎぞう)なので、注意!

 

よって、

その例えば売主さんが、

  1. ご本人(登記上の名義人)であって
  2. 売却の意思があって、
  3. 所有権移転登記をすることに同意をしていて
  4. その上で、なにかの理由によって、
  5. 誰かに代筆する承諾を与えた

という場合は、その代筆に問題があるとは思えません。

だからと言って、積極的にすすめるわけではありませんが。

 

○ 代筆して将来的に困ることは?

 

積極的におすすめしない理由は、
将来、万が一裁判等になったときに
委任状が本人の自筆ではないということが
不利に働く可能性がある等の理由によります

やはり、書証があるのとないのとでは
裁判になったときに違います。

 

もちろん、万が一そうなった時は、
その場に立ち会った司法書士として

本人が売買意思を有し、
登記義務を理解した上で、
当方に代筆の依頼をされた
または、
その方は承諾を得て代筆をしただけ

という証言をする用意はあります。

 

もしもそれを偽造と誹謗されたら、
当然ながらこちらも徹底抗戦します

当事者が困っていて、
単純に誰が文字を書くのかという
問題に過ぎないとき
別にやっていけない理由が
見当たらないときは

私は代筆をしますし、
本人以外の方が代筆をすることを
止めたりはしません。
偽造ではなくて、代筆ですから。

署名は記名・印字されたものや
スタンプでもOKなので。

 

○ いいえ、それは偽造です

 

業者さんから実に気軽に
売主さまの委任状の代筆を依頼されることがあります

もちろん売主さまがそれを承諾していれば
内容によっては、
さほどの問題を生じることはないかもしれません

具体的に言えば、
不動産の評価証明書の取得のための
委任状など。

実際に本人の同意というか、承諾がなくてもどうということはないかもなので、ばんばん自ら委任状を代筆(!)して、これを行う業者さんもいる模様です。

ですが、そもそも刑法に相当する行為ですよ。文書偽造は。

 


刑法159条(私文書偽造等)1項で、「3月以上5年以下の懲役に処する」と定められています

さらに判例によれば、
名義人の将来の承諾を予想して行為し
かつ事後において名義人の承諾を得たとしても
そのために、本罪の成立が妨げられるものではない。

つまり、
事後に承諾をもらったとしても
私文書偽造罪になるということです


 

しかし、
実害がないことならやっても良いのか
といったらそういうことではありません

 

将来、何かその取引で問題が生じて
裁判沙汰になった場合とか。
取引に付随する書類の一切が白日のもとに
晒されます。(たぶん)

千里の道も一歩から(ちがう?)
ではなくて
蟻の一穴から物事は崩れていくというのが
あります。

些細なことをいい加減にしていると
大きな山さえもほんの小さな穴から
崩れていくということです。

まさか、
売買契約書や領収書を偽造することは
考えにくいことではあります
(イメージとしてすごく悪いことだから)

でも、

ひんぱんに認印の委任状を偽造する慣行
(習慣的に偽造してるということ)が
あるとしたら、
境界が非常にあいまいになっていく恐れが
あります
悪事に慣れてしまうということです。

怖いことです。

 

○ 勝手に代筆をしたいとき

 

仕事を進めていく、つまり、滞りなくスムーズに物事を進めたいと思ったときに、遠方にお住まいのお客様、平日の昼間は連絡がつかないお客様、その方たちから書類を頂戴するのは、まあ実際のところものすごく大変です  おまけに字を書くのがきらいな人もいらっしゃいます

そうしたときに「えい、やってしまえ」と
認印でOKな委任状を、
さらっと作ってたとえば評価証明書を
取得するとか。

評価証明書・・・不動産の売買登記に使います。
所有者の委任状がなければ取得できません

たしかに実害はないかもですが。

 

「事前に必要な手続きは全部お任せするので必要な委任状とかあったらできれば代筆してください。ハンコはお預けしておきます」などという事前の承諾でもあるならばいざ知らず。

あとで
予測もしなかったトラブルに見舞われてから
勝手に業者に、司法書士にやられたとか
はては、
偽造された、私は関係ない
などと言われたら
たまったものではありません。

宅建業者にも当然罰則はあるし、もちろん司法書士が書類を偽造するというのは、あってはならないこと、非常にまずいです。いずれにしても懲戒処分を受けること間違いなしどころか、たちどころに信用を失います。

 

○ 登記に使用する委任状
(みとめ印でOK?)

 

抵当権の抹消登記とか、
建物の保存登記とか、
所有者の委任状は認め印で足ります
あとは、
売買での買主の委任状など。

 

権利を失う側の委任状は実印が原則ですが
権利を得るだけの登記委任状は、
みとめ印でOKです。

実印を押すときは印鑑証明書も必要なわけなので、このパターンだとむしろ偽造は考えにくいです

が、

認印で済む委任状は
勝手に作成してしまうようなことが
司法書士業界でさえもかつてはあったようです

今では、
本人確認に関する規定が置かれたため
そうしたことは耳にしなくなりましたが。

○ びっくり実話!

 

当方の開業時(約四半世紀前)、
銀行からの抵当権抹消の依頼に対し
所有者の委任状を要求したところ

その委任状いらないでしょ。
いつもナシでやってもらってます
司法書士権限で。

と即答されて仰天したことがあります

たまたま、その銀行の司法書士がそのような方針であったということなのか。はたまた窓口担当者が駆け出しの司法書士をからかってみただけなのか本当のところはわかりませんが

司法書士権限って。

今は昔です。
のどかな時代ではありました。