ところで、権利証とは何なのでしょう。

ところで、権利証(登記識別情報)とはなんでしょう

 

平成18年に不動産登記法が改正になってからそれまでの登記済証の代わりに登記識別情報(通知)が発行されることとなりました。

司法書士の間ではさんざんの悪評だった登記識別情報でしたが、はや、12年を経過したわけです
今ではすっかり登記界隈に違和感なく溶け込んできています。

 

それはさておき、

権利証も登記識別情報通知も
形態や使い勝手が違うだけでほぼ同じものです
特に使い勝手の点で大きく異なっています

 

かつての権利証は?

 

それまでの権利証(登記済証)は、まず申請人から権利証作成のための素材を登記所に提出しました。
そこに、登記所が登記済みという印版を押すことによって作成されていたものです

権利証作成のための素材というのは、多くの場合は、

  • 申請書の写し(申請書副本)または、
  • 売渡証書や、
  • 贈与証書などです。たまに
  • 調停調書だったり、
  • 判決正本だったりします。

 

つまり、所有権の成り立ちによって若干差異はありましたがこれが基本形でした。

 

新しい識別情報通知!

 

翻って、新しい登記法では、法務局から発信される電子情報(登記識別情報)またはそれを印刷した紙の通知書(登記識別情報通知)へと変わりました。

 

登記識別情報は電子情報なので、本来であれば、わざわざ紙に印刷することでもろもろの危険を増やすことはないわけです。

しかし、その前段階、電子情報を上手に買主の手元に届けることが困難なのでした。

 

よって、ほとんどの場合

  1. 登記識別情報通知という紙の通知書を発行してもらい、
  2. それを司法書士が受領し、さらに、
  3. 買主(登記識別情報に権利者として記載されている人)にお渡しする、

という流れを踏みます。

 

これは、そもそもオンライン申請自体が本人申請人(司法書士ではない)のためにデザインされているから、と言われています。

本人が自分のために登記を申請したあとで、登記完了時に自分のパソコンに登記識別情報が通知されてくる(メールで来る)のが本来のあり方なのだろうと思います。

制度改正してはや、十数年ですが。

 

 

いずれにしても登記が完了して識別情報通知をお渡しする時に「大事なものだ」と説明しています。

 

登記識別情報通知と言ったときに

「???」

というようなお顔をなさるお客様でも、

「いわゆる一昔前に権利証と言われていたものです」

とご説明をすると納得していただけます。

 

ですが、納得しているように見えるのは、権利証というイメージに納得できた、ということであって、それがどのようなものかについて納得してもらえたわけではありません。

 

 

「これは、重要なものですから大事に扱ってください。紛失しないように厳重に保管してください。」

ですが、

あくまで、識別情報通知なのであって、そもそも、その発行をしないように選択をすることもできる、ということを考え合わせると、重要というのが、どれほどのものであるのか、説明すればするほど隘路に入り込んでしまいます。

だからといって、注意書きの紙を一枚お渡ししてそれでお終いにするのではあまりに無責任なので一所懸命にご説明しているのですが。

 

権利証は不動産ではない

 

で、以前はテレビドラマや映画などでは、権利証を盗られると全財産を取られたような大騒ぎを演じるというのがお決まりでした

そのようなこともあってか、権利証をあたかも不動産それ自体とお思いの方もおいでですが そんなことはありません。

 

権利証は権利それ自体ではありません。

なので権利証を紛失したからといって権利が失くなるものではありません。

 

 

また、もしも盗難にあったとしても、権利証を盗られただけではそれだけでは何もできません。

 

必ず、たとえば所有権移転をする際には、

  • 実印、
  • 印鑑証明書及び
  • 司法書士による厳格な本人及び登記意思の確認がされるので、

権利書を紛失したからといって、そう慌てなくても大丈夫です。
(殆どの場合、取引には司法書士が介在します)

 

また、権利証を紛失してしまっても
必要とあれば
登記はほとんどの場合 問題なくすることができます。

 

登記が出来ない可能性があるのは、

 

1 住所変更ができないとき

現在の住所と登記簿の住所のつながりが
公的証明書によって証明できないことがあります。
権利証があれば登記は何とか可能ですが
権利証もなく、固定資産税も課税されていないとしたら
同一人であるという証明ができないため、かなり苦しいことになります。

 

2 本人の確認ができない場合

ご高齢だったり、ご事情によって、
免許証、
パスポート、
マイナンバーカード、
保険証などの
法定の本人確認情報をお持ちでないときは
司法書士はご本人の確認ができないためご依頼をお受けできません。

 

 

では、権利証とは一体、何なのか。

 

一言で言うならば、権利の登記(所有権、抵当権など)が済んでいるという証(あかし)です
そしてそれは権利の登記の申請などのときに
登記名義人であることの証明資料の一部として
登記所に提供するためのものです

つまり、次回それをもとにした権利の登記がされる際に
提供することが期待されているもの という感じでしょうか

それによって登記義務者の意思をさらに厳正に確認して万が一にも間違った登記が行われないようにするため なのですが

実際には権利証が紛失していてもさほど問題なく登記が行われることを思えば
何だかな?という感じはあります

 

また、現在の登記法では、登記完了証という文字通り登記が完了した証が発行されます
これは、単に完了したということであって登記完了証は登記識別情報通知とは全く別のものです。

 

登記完了証?

A4サイズの紙の最上部に、登記完了証と書かれているのが登記完了証です
こちらには、登記識別情報通知にあるようなシール部分がないのでそれと知っていれば間違える心配はありません。

 

また、登記によっては、登記識別情報通知が発行されない登記もあります
が、
そのときでも登記完了証は必ず発行されます

 

過去の遺物となるにしても

オンライン申請が進まない(ネットでの登記申請ではなく、未だに登記申請書~紙での申請率が高い)大きな理由の中に

権利証・登記識別情報の存在があるといわれています。

ひょっとしたら近い内に登記制度のレガシーとなるのではないかな。

 

思うところはいろいろありますが

受け取った権利証、登記識別情報は重要な書類なのでしかるべく大切に保管なさった方がよろしいと思います。

 

権利証を保管するのが面倒なので、
薪ストーブの焚付にしたとか
シュレッダーにかけた、とか聞いたことがあります

これらは、むしろ失くなった原因がはっきりしているし、もはや現実に存在しなくなったわけなので その意味では心配無用というわけです。

 

登記識別情報であれば、失効させることもできます。

法務局に対してそのように申出をするだけです。

そうしてしまえばその情報がどこにどうしていようとも無効なのでもう心配しなくて大丈夫です。

(権利証~登記済証についてはこのような措置はありません。物理的に消滅させてしまえばよいからですね)

 

しかし、いつのまにか紛失していたというのは不安です。

そもそも受領したのか?
そんなものを見たことがあったのか?
あの時司法書士から、あるいは銀行から返却うけてなかったのではないのか?
そういえば数年前に空き巣に入られた時に被害はなかったと思っていたがあの時にやられたのでは?など。

 

登記から20年経過してから、

「権利証、ないんですが」

と言われても困ります

 

ほとんどの場合、権利証や登記識別情報がなくても登記はできますが そのような重要書類の所在を不明確なままにしておくのは 危険です

自分の権利は自分で守りましょう

 

権利証は権利それ自体ではありませんが、
悪用されると厄介な代物です

 

つまり、権利証が登記義務者の意思を確認して虚偽登記の発生を防止するために使われるということは、

すなわち、

それを手に入れた悪意の第三者(なりすまし等による犯罪者)にとっては犯罪実行をたやすくさせるものだからです。